第48話 アルテナとクロードの出会い(改稿第一版)

 暗い空間にただ一人、歩いても歩いても出口を見つけることさえできない。

 「ルーナ、どこ?ウリエル、どこにいるの?」

 声を出して呼んでみても、声は空間に飲み込まれて消えてしまう。

 そして、自分が独りぼっちになってしまったのを自覚すると、悲しみと寂しさで心が潰れてしまう。

 もう殆ど何も感じなくなってしまった。

 今はただ、ルーナとウリエルがいる場所に行きたいだけ。

 鬱蒼とした森の中をさまよい歩く私の眼の前に竜が姿を現す。

 竜の目が、私を、私の身体を見ている。

 ああ、こいつもなのか、こいつも私の身体が目当てなのか。

 あの男と同じだ。

 もう、どうでもいいや。

 守りたいものは掌から零れ落ち、結局、私にはこんな運命しかないのだろうから。

 『眠れ』

 竜は、私に眠りの魔法を掛けたようだ。

 意識が、暗い底なし沼の中に沈んでいく。

 立っていることも出来なくなって、地面に膝から崩れ落ちる。

 次は、どうか次こそは、素敵な現実でありますように。

 そして私は意識を手放す。

 

 どれくらい眠っていたのだろう?

 半分意識が覚醒し始める。

 誰かに抱きしめられている感覚が、大切にされている感覚が懐かしい。

 オリウル様にもこうして抱きしめられたことがあったのを思い出す。

 私が愛した唯一の男性。

 ルーナやウリエルに言わせれば、それほど良い男ではないということだってけど、

凄く正義感が強くて、曲がったことが嫌いな人だった。

 でも、だからと言って頑固ということもなく、私にとっては頼りがいのある優しい人だった。

 でも、おじい様に無残にも殺された。

 槍の穂先にオリウル様の頸が無残に晒されていた。

 おじい様に味方した神族たちは、オリウル様を愚か者だと嘲笑していたが、私はそうは思わない。

 騙し討ちを仕掛けたのは、おじい様達の方だったのだから。

 悪夢に苛まれそうになるのを首を振って払いのける。

 まだ頭がボゥッとしたまま目をそっと開けると、私の顔を覗き込む男性がいる。

 私が愛した唯一の男性にそっくりな顔……。

 「オリウル様? オリウル様」

 やっぱり今までのことは、悪い夢。

 だって目の前には、とっても大好きなオリウル様がいるんだもの。

 私は、私の顔を心配そうに覗き込む男性に腕を伸ばし、首に抱き付くと何の躊躇いもなく口付けをする。

 そして愛おしいオウリル様の唇を割り舌を侵入させ、オリウル様の舌に絡ませる。

 悪夢現実の中で悍ましい男に無理やり仕込まれたものであろうと、今は愛しい男性と唾液を、体液を交換したかった。

 はしたない女だと思わないでください。

 貴方と死に別れてから、幾年月が流れたのか。

 やっと、やっと会えた。

 それだけが嬉しくて、オリウル様と舌を絡ませ続ける。

 でも、夢は醒め、現実悪夢が姿を現す。

 唇を離し、改めて男性の顔を見て驚く。

 オリウル様じゃない!

 姿形はオリウル様にそっくりなのに……。

 そして、彼の口から洩れた言葉がオウリル様ではないと決定付けた。

 「リリア?」

 オリウル様の口から他の女性の名前が出てくるはずがない。

 そんな不誠実な人じゃないもの。

 私は慌てて男性を突き飛ばし、身体に掛けてあった毛布で顔の半分を隠しながら距離をとると誰何する。

 「あ、貴方は誰?」

 こ、こんな恐ろしい人が存在するだなんて、私は知らない。

 相手に気が付かれないように、『簡易鑑定』を掛ける。

 こうすれば相手に気が付かれること無く鑑定できる。

 ただ、鑑定できるのは基礎レベルとランダムで一つか二つぐらいだけど。

 「!?」

 基礎レベルが79500ってどういうことなの!?

 「僕はクロード。君はリリアじゃないのか?」

 ク、クロードって次の勇者としてウリエルが会いに行った普人種だったはず。

 た、短期間に何故こんなに強くなってるの?

 こ、怖い。

 あの男よりも遥かに怖い。

 お、怒らせちゃいけない。

 抵抗しようものなら、どんな目にあわされるか分からない。

 あっという間に蹂躙されるだけだ。

 「ち、違う!私はリリアって人じゃない」

 「じゃあ、君は誰なんだ?」

 「ア、アルテナ」

 「アルテナ? ああ、ウリエルやルーナさんが言ってたお姉様か……。申し訳ないけど、鑑定させてもらうよ。洗脳や暗示が施されていたり、別人格が植え付けられていると面倒だからね。『鑑定』」

 「……」

 クロードが掛けた『鑑定』は基礎レベルが79500を超えるだけあって物凄い威圧感があって動けない。

 「ふむ、軽度の洗脳と暗示か……。良かった、ウリエルやルーナさんなんてHPが一割以下にならないと本来の人格が表に出てこられなかったからね。今は変な方向に人格融合始めちゃって、困ってるみたいだけど……」

 そう言って苦笑するクロードさんに、一瞬見惚れてしまう。

 ち、違う、クロードさんに見惚れていたわけじゃなくて、あくまでもオリウル様に似てるから見惚れてしまうだけなんだから。

 というか、今聞き捨てならないことを聞いたような……。

 「……、え? ウリエルとルーナは生きてるんですか?」

 「ああ、生きてるよ。僕が張った多重次元断層結界の中に僕のパーティーメンバーとと留まってもらってる」

 「よ、よかった……」

 「それはそうと今頃、創造神の爺さんは焦ってるんじゃないかな?」

 「え?」

 「だって、創成の女神であるアルテナの存在がこの世から消えたんだから」


改稿第一版 誤字修正




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る