売られた花嫁(その40)
浪人生殺しで、木下社長の秘書の内海嬢が重要参考人で取り調べられているという犯罪ネットニュースが流れた。
泉田刑事からは、何の音沙汰もなかった。
しばらくすると、殺された浪人生の前橋の父親が100万円を送金してきた。
「・・・この100万円はもらえないよ。内海嬢はまだ重要参考人で、逮捕されたわけでもないし、推定無罪もいいところだ」
と、うれしさのあまり、うっかり口を滑らせると、
「裕史さん、何をかっこつけてるんです。逮捕につながる情報提供でお父さんは喜んでいるはずです」
危うく、可不可にどやされそうになった。
そうこうしているうちに、MIKIからメールがきた。
今すぐに会って相談に乗ってほしいという。
MIKIはすでに蒲田駅前のビジネスホテルを出て、今は品川のホテルにいるという。
返事をためらっていると、携帯電話が鳴った。
「いつ会える?」
「もう蒲田近辺にいなくてもいいんですか?」
とたずねると、
「いいみたい」
MIKIの声は晴れやかだった。
「無罪放免ということで」
「そもそも罪なんかないし」
「辻本さんは、自殺ということで・・・」
「そこは何とも言えないけど。事情聴取とやらはなくなったみたい」
ほんとうに無罪放免されたのか、あるいは可不可が言ったように、警察としては、証拠が見つからないので泳がせておこうという考えなのか?
「それで、お祝いでもしようかなって・・・」
木下社長が忙しいので、誰でもいいから話し相手がほしいのだろうと思って、
「社長秘書の内海さんが、浪人生を殺した罪で重要参考人として取り調べを受けています」
地雷を踏まないように、話題をそちらへうまく切り替えたつもりが、
「へえ。あの秘書がねえ。・・・辻本さんの件で、社長さんも取り調べ受けているみたい。それで、なかなか会えないのよね。結婚の話があるのに・・・」
MIKIは、内海嬢のことはどうでもいいような口ぶりだった。
「MIKIさんも、内海さんの被害者として事情聴取されたのですか?」
「そうそう、被害届を出せって・・・」
泉田刑事は、内海嬢を突破口にして、三つの事件の核心に迫ろうとしているように見えた。
・・・それは望むところだが、なぜかひとり取り残されたような気もした。
「結婚が宙ぶらりんで困っているのよ。・・・100日ってまだまだ先でしょう。それで元の新宿の店にもどって、しばらく働こうかと思って・・・」
相談事とは、そのことだと分かった。
答えは出ているのだろうが、MIKIと会って、警察の動きを探ってみようと思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます