売られた花嫁(その4)

そんな話を可不可としていると夜が明けた。

寝床に入ってやっと寝ついた朝の11時ごろ、所轄署の刑事がふたり連れでやって来た。

玄関に立った刑事のひとりは、真夜中に下着泥棒の男のアパートで会った若い刑事で、ホステスといっしょににアパートに行ったいきさつを再びしつこくたずねた。

奪ったばかりの若いホステスの生下着を頭にすっぽり被ってオナニーをしすぎたせいで、心臓麻痺かなんかで死んだとばかり思っていたので、

「事故死だったのではないですか?」

とたずねたが、ふたりの刑事は何も答えようとはしなかった。

アリバイもたずねられたので、母親とあの若いホステスに確かめるように言うと、刑事たちは帰っていった。

もう眠れそうになかったので、PCを立ち上げて犯罪ネットニュースをチェックすると、昨夜というか、今日の午前1時すぎの騒動が載っていた。

もっとも、下着泥棒の話は何もなく、あのアパートに住む浪人生が自室で殺されたとのみ一行で報じていた。

可不可に電源を入れて、

「昨夜の下着泥棒は殺されたんだ。気がついてた?」

とたずねると、

「ええ。でも、下着泥棒を探し出すのが仕事でしたから」」

可不可は、暗に殺人事件の捜査は頼まれていないとでも言いたげだった。

確かに、あの場でそんな話を犬のを見たら、あのホステスさんも驚いたろうから、それでよかったのだが・・・。

「犯人の匂いなんか記憶してないよね」

「あれだけの下着がありましたから、それぞれの匂いが強烈で、それはちょっと・・・」

可不可の答えには一理あった。

下着泥棒は、下着の匂いで、色とか形とか、汚れで・・・興奮する?

いや、その下に隠されたものを想像して興奮する?

・・・下着泥棒の心理は、理解不可能な奥深いフェチの世界だ。


翌朝の犯罪ネットワークには、殺された浪人生は地方から上京して医学部受験専門の予備校に4年も通っていたとあった。

さすがに、下着泥棒の常習犯とは書いてなかった。

「後頭部を鈍器で殴られたのが死因らしい」

可不可にニュースの内容を伝えると、

「それは変ですね」

と可不可は即座に返事をした。

「どうして?」

「われわれが駆けつけたとき、アパートの部屋の扉は少し開いていました」

「犯人は浪人生を殺したあと、あわてて逃げたので、部屋の電気も消さず、ちゃんと扉も閉めなかったのだろう」

「そのことではありません。どうして部屋に入ったかです」

「・・・・・」

「ホステスの下着を奪ったあと、浪人生はすぐにアパートにもどりました。もどった浪人生の部屋に、犯人はどうやって入ったのでしょう?」

「・・・・・」

「いちばん確率の高い答えは、浪人生が部屋に入るときに、犯人もいっしょに入った、です」

可不可は得意気に鼻をうごめかせて言った。

「ということは、浪人生がホステスさんの下着を奪うのを目撃して、あとをつけた?」

「はい、そうです」

これだと、まるで小学校の先生が生徒に諭しているようだ。

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