売られた花嫁(その37)
所轄署の泉田刑事が、秘書の内海嬢が浪人生殺しの重要参考人だと教えてくれたのとバーターで、等々力の成瀬氏と蒲田の辻本氏の放火殺人の事件の疑惑を話したと可不可に言うと、
「これで賞金100万円はフイになりましたね」
と可不可は肩を落とした。
「それはしょうがないね。どの事件でも、これ以上は調べようがないし・・・」
とアルバイト探偵の悲哀を嘆くと、
「でも、前橋の開業医のご子息を殺した犯人を挙げるヒントを差し上げたのですから、せめて半分ぐらいは申請しても罰は当たりません」
可不可は、一転して強気に出た。
「推理しただけで、証拠を見つけたわけではないからね・・・」
となだめておいて、今から、残りの二つの事件をふたりでレヴューしてみようと提案した。
「まずは、等々力の成瀬邸の放火殺人事件だが、木下社長夫人が10分間も二階の寝室にいて何をしたかだ。10分間で成瀬氏を椅子に縛りつけるのは無理だとしても、放火することはできた」
と話しはじめると、
「放火したのと、放火しなかったとする二つを分析してみてはいかがでしょう?」
と可不可はもっともなことを言った。
「・・・では、放火したとすると、あれほど驚いて逃げ出したのが解せないね」
「演技とは考えられませんか?」
「う~ん。あれが演技だろうか。夫人は尾行されていると知っていた。見られているのを知っていた割には、・・・とても演技には見えなかった。半狂乱といってもいい」
「では、夫人は放火しなかった?」
「あれを見れば、そう考えるのが自然だろう」
「では、その前提として、誰が成瀬氏を椅子に縛りつけたかを考えましょう」
「ああ、それね。・・・警察のリーク情報によれば、あの日、家に入ったのは犯人と夫人と、午前中に来た宅配便の業者の三人だけだ」
「宅配便の業者が来た時間は何時です?」
「午前中としか分からない」
「成瀬氏の自殺はないですね?」
「それはないだろう。じぶんでじぶんを椅子にしばりつけておいて放火自殺などできるものか」
「では、自殺ではないということで?」
「ああ、それでいい。つまり、他殺ということだ」
「はい。では、他殺ということで。・・・となると、犯人は宅配便の業者ということで決定です」
「あ、いや、ちょっと待ってくれ。・・・それはいくら何でも飛躍し過ぎだろう」
「あの土曜日に成瀬氏宅に入ったのは、夫人と宅配便の業者の二人だけです。成瀬氏は自殺ではなく、夫人も犯人でないとすれば、消去法で残るのは宅配便の業者だけで、この業者が犯人ということになります」
決めつけるように言う可不可には、驚くしかなかった。
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