売られた花嫁(その17)

「で、結局、令夫人はどうされたのです?」

家に帰るとすぐに可不可の電源を入れ、午後からの木下社長夫人の尾行の顛末を話した。

可不可は、じぶんに相談なしに動いたことは特に非難はせず、話の先を急かせた。

「じぶんが、警察にこのことを報告するか、夫人がするか、迫ったが・・・」

「それで?」

「パニックで気が動転したのか、夫人は何も答えず、ただ黙っていた。聡明なひとだと思ったけどね」

「それで、木下社長には、夫人は等々力から15時25分に家にもどったとシンプルにメールを送った。だいぶ経ってから、『お疲れさん。帰っていいよ』と返事があった。木下社長のGPSポインターは、千葉から動いていないので、ゴルフで忙しかったのだろうよ」

そんな話をすると、せっかく夫人が淹れてくれたコーヒーに手をつけなかったのを思い出して、やたら喉が渇いた。

台所でコーヒーをマグカップにドリップして自室にもどり、煙草をふかしながらPCでネットサーフィンをした。

多摩川べりの等々力の火事の新着ニュースはなかった。

「明日あたり、警察がここへやってくるでしょうね」

と可不可が言った。

「車のナンバープレートと僕と夫人の顔が防犯カメラにばっちり映っているからね。警察にはどう話す?」

「どうもこうも、すべて洗いざらい話をするしかないでしょう」

「探偵の守秘義務というやつがある」

と答えると、可不可は笑い出した。

「そんなに気張ってみても、しょせんライセンスのないアルバイト探偵です。弁護士でもありませんし、クライアントの知りえた機密を守る職業上の機密保持義務などありません」

そんなことは百も二百も承知だが、改めて可不可にえらそうに言われると腹が立ってしかたがない。

「そもそも夫人は何のためにあの屋敷に行ったのだろう?死んだ老人を先生と呼んでいたね」

「夫人が、開いた門扉の先の玄関にすんないり入っていった。訪問の約束があったのはまちがいない。今朝早くに、秘書の内海さんが電話をしてきて、必ず尾行してほしいと念押しした。ということは、夫人が等々力に出かけるのを木下社長は知っていた」

・・・等々力の屋敷で焼死した老人のことをネットで調べると、元は闇金融を生業として財を成した成瀬清四郎と分かった。

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