売られた花嫁(その25)

3本目の缶ビールを飲みはじめたMIKIは、酔った勢いなのか、

「貞操帯って知ってる?」

とたずねておいて、よろめく足でベッドに座り、下から分厚いカタログを引っ張り出した。

「社長さんが、気に入ったやつを買ってやるって・・・」

ぺらぺらとページをめくった。

「これを着けて花嫁になれって言うの・・・」

それは、女性が身に着ける貞操帯の豪華なカタログだった。

・・・可不可が興味深気に見ているのがおかしかった。

中世の十字軍の騎士が、エルサレムの聖地奪回の遠征に出る時、貞操を守らせるために、残した妻に着けさせたのが貞操帯のはじまりだったなどと、あとで可不可に教えてやらなねば・・・。

「社長さんが、これを結婚の祝いに、ね」

と、MIKIが真顔で言うのを聞くと、木下社長は、辻本氏と貞操帯を着けて結婚しろとMIKIに本気で言っているように思えてきた。

・・・狂っている。

「社長さんが、そうして欲しいののなら、お安い御用よ」

一日でも早く離婚する道具として、貞操帯が使えると計算しているとしたら、それは残酷な処刑のようだ。

・・・木下社長もMIKIも、想像力が決定的に欠けていた。

新婚のベッドに、貞操帯を着けて横たわる新妻を見つけた辻本氏は、いったいどんな反応をするのか考えたことがあるのだろうか?


「これで、MIKIとも木下社長とも縁切りだ」

憤然としてMIKIのマンションから家に帰り、犯罪ネットで等々力の放火殺人のニュースを探ると、『放火殺人の犯人逮捕か?』の見出しが見つかった。

昨夜、成瀬の半焼した屋敷の離れで大の字になって寝ている男を、母屋のアラームを感知した警備保障会社のガードマンがが見つけたという記事だった。

多摩川べりで暮らすホームレスの男が、台所からウイスキーの瓶を持ち出し、冷蔵庫にあった食材を酒の肴にして大酒を飲んで、離れの居間で寝込んだようだ。

ホームレスの男は、成瀬邸の土手下のネットフェンスに穴が開いているのを知っていて、そこから侵入したにちがいない。

やはり、ネットフェンスの穴から侵入しても、アラームは作動しないのだ。

だが、この男が犯人ではありえない。

・・・犯人はもっと緻密な頭脳を持っている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る