売られた花嫁(その24)

家に帰るとすぐに成瀬邸のセキュリティーシステムにハッキングしたが、先週の土曜日のインターフォンを含む防犯カメラの映像は警察が抜き取ったのか、すっぽりそこだけが抜けていた。

続いて、MIKIが4人でプレーしたという千葉のゴルフ場のHPに入り込んで、先週の土曜日の午前スタートのメンバー表をさぐった。

だが、どの時間帯にも名前なかった。

午後のスタート表に、13時スタートで木下社長一行のメンバーの4人の名前をやっと見つけた。

ワンハーフの予約になっていたが、何時にプレーが終わったかは、これだけでは分からない。

MIKIはモラル的にだらしのないのない女だが、この成瀬氏の放火殺人にはからみようがないのは明白だった。

あれは、夫人のMIKI憎しから出た妄言だった。


MIKIにメールを送ったが、返事はずいぶんと遅かった。

結局、MIKIのマンションで会って話すことになり、終電で帰るMIKIを駅前広場で待って家まで送った。

缶ビールをひと口飲んだMIKIは、来週に迫った自身の結婚の話をはじめた。

「辻本さんに悪いので、結婚式は身内だけで済まそうと思うの」

悪いというのは、100日で離婚しようと決めているからだろう。

・・・だったら、はじめから結婚などしなければいい。

「結婚の証明なので、大事なのは結婚式ではなく入籍だと社長さんはおっしゃるの。それで、来週にでも区役所にふたりで行くことになった。その週末には結婚式よ」

「ずいぶん急ですね。でも、結婚相手の方は100日で離婚するのはOKなんですか?」

「馬鹿ねえ。離婚するのが分かっていて、結婚するするひとはいないでしょう」

・・・これだと、じぶんの言っていることが分からないMIKIの方がよほど馬鹿だということになる。

「じゃあ、ここも引き払うのですか?」

どうでもいいことだが、たずねると、

「う~ん、どうしようかな。・・・ここにいて、仕事を続けてもいいし」

・・・ますます結婚する意味が分からない。

それを察したのか、

「辻本さん、開業医だったご両親の遺産を受け継いでお金はたっぷりあるらしいわ。でも、仕事が忙しすぎて恋人を見つける暇がなくて、40才まで独身よ。・・・それで、社長さんが可哀そうに思ってキューピッド役を、ね」

何がキューピッド役なものか、・・・結婚三か月で離婚のほうがよほど可哀そうだろう。

「先週のゴルフって、結局終わったのは何時でした?」

MIKIは馬鹿げた結婚の話を延々続けそうだったので、やっとゴルフの話に切り替えると、

「ああ、知りたいのはそのことね。朝からやる予定だったのが、予約が取れなくって、1時スタートで、上がったのが3時かな。。辻本さんが車でここまで送ってくれた。ちょっとだけ上がってもらったけど、お酒飲まないし、翌日の日曜日に結婚のことで会うことになっていたので7時過ぎには帰った。・・・聞きたいのは、こんなこと?」

「はい。・・・それで、日曜日に会ったのですか?」

「ええ、六本木でイタリアンディナー。社長さんも奥さんを連れて来た」

「夫人も?」

「ええ、そう。まともに目も合わせずに私を嫌っているのはありありだけど、私と辻本さんの結婚が正式に決まったので、奥さんもひと安心でしょうよ」

MIKIは得意気にまくし立てた。

だが、MIKIは100日後には、辻本と離婚して木下社長と結婚する気でいる。

ということは、木下社長はその前に怜香夫人と離婚しなければならない。

・・・だが、夫人が、簡単に離婚に応じるとも思えない。

100日後に、二組のカップルが修羅場を迎えるのは目に見えていた。

・・・考えただけで頭がくらくらする。

傍らでスフィンクス座りをする可不可も、しきりに首をひねった。

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