売られた花嫁(その35)
「家が火事だと知ったのは何時です?」
「9時半ぐらいかな。社長さんが携帯をチェックして火事のニュースを見つけた。わたしは帰りたくなかったけど、社長さんは今すぐ帰れって言うの。じぶんが行くと無用のトラブルになるので、ひとりでタクシーで帰れって・・・。それで、心細くなってあなたにSOSした」
「警察にはどんなことを聞かれました?」
「まず、妻であることを確認されて、地下の霊安室に連れて行かれて、辻本さんとご対面よ。・・・涙なんか出なかった」
「焼け焦げていませんでした?」
「それほどひどくはなかった・・・」
「警察は、自殺だとはっきりと?」
「そこまでは・・・。ただ、今日結婚式をあげたカップルが、どうしてトラブルになったかをしつっこくきかれた」
「どこまで話したのです?」
「特には何も・・・。毎日警察署に来てもらうので旅行とか遠くへは行かないように念を押された。これって逮捕されるわけ」
「まさかそれはないでしょう。何でも事実を正直に話せば問題はないはずです」
「でも、保険に入ってすぐに夫が変死する話ってよくあるわよね。わたしも疑われるのかしら?」
「結婚して奥さんのために保険に入るのはふつうです」
「でも、1億円よ」
MIKIは不安に駆られて喉が渇いたのか、2本目の缶ビールを開けた。
「では、貞操帯とか、社長さんとの結婚の約束とかはどうしたらいい?」
急きこむようようにたずねるMIKIに、何も答えられなかった。
それはMIKIが考えればいいことだ。
教えることは何もない。
貞操帯の鍵を辻本が身に着けていたら、警察は、それが何の鍵かをたずねられるかもしれないが・・・。
木下社長との愛人関係はどうだろう?
愛人を金で売て偽装結婚させるのは、どんな罪になるのだろう?
MIKIが木下社長と結婚の約束をしているのが知れれば、辻本殺害の強い動機と見なされるだろう。
逆に辻本が自殺と断定されれば、モラルの罪は別としても、MIKIは罪には問われずに、1億円の保険金と旧診療所の地権を手にするだけだ。
ここのホテルのラウンジで食事をしないかとMIKIに誘われたが、
「社長さんは、事件が落ち着くまではしばらく会わない方がいいと言うの」
というのを聞いて、木下社長の代役は御免こうむりたいと思い、そそくさとホテルを出た。
日が暮れて家に帰ると、すぐにPCと可不可の電源を入れた。
「犯罪ネットでは、蒲田の火事の件は、辻本さんがじぶんで放火して自殺したみたいにしか書いてないね」
と話しかけると、
「そんな情報をリークして、犯人を泳がせて尻尾を出すのを待つ。・・・警察のいつもの手口です」
可不可は、皮肉っぽい口調ですぐに言い返した。。
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