売られた花嫁(その34)

MIKIは、手にした缶ビールを口にするのも忘れて、話に夢中になった。

「チャペルで式をあげて蒲田の家にもどったけど、辻本さんとはどうしても夫婦になれないと思った。悪いけど、彼を生理的に受け入れられない。・・・だったら死んだ方がましよ」

「でも、辻本さんと結婚するのが条件でしょ」

「そうよ。それはよく分かっている。でも、それとこれは別よ」

「もしかして、木下社長と結婚するために結婚したなんて、辻本さんに告白したのですか?」

「まさか!そんなこと口が裂けたって言うものですか。ただシンプルに結婚はできないって言っただけよ」

MIKIは、やっと手に持った缶ビールを一気に呷ってから、遠い昔のシーンを思い返すようにしてしばらく黙っていた。

「そうしたら、結婚できなければ死ぬ、なんて泣き出して・・・。いい大人がさ。馬鹿みたい」

・・・だが、世間的には許されない結婚をしたMIKIの浅はかさが、そもそもの原因ではないか。

「それで、社長さんに話をつけてもらおうと思って、すぐ連絡したの」

「・・・・・」

「すぐに駆けつけてくれた。まずMIKIを説得するからといって、わたしを連れ出して、このホテルに部屋をとって、100日後に必ず結婚するからがまんしろって説得したわけ」

「100日後ね・・・」

「例の離婚した女の再婚の条件でしょ。あなたが教えてくれた妊娠してない証明書のことを言おうと思ったけど、たぶん奥さんを説得して離婚するのに、それぐらいの日にちが必要なんだろうと思ったのよ。そこまで言うんなら、がまんしようかと思ったわけ」

MIKIは、何でも木下社長の言いなりになる女だと呆れるしかなかった。

「それで、今度は辻本さんを説得すると言って出て行って、小一時間ほどしてもどって来た。にこにこして」

「ちょっと待ってください。時間の整理をしましょう。MIKIさんが木下社長に仲裁を頼んだのは何時ですか?」

「そうね、5時ぐらいかな」

「すぐやって来たということは5時半には蒲田の家に着いた。その時はどのぐらいの話し合いでした?」

「30分ぐらいかな」

「では、6時には家を出てこのホテルの部屋に入った。で、辻本さんを説得に出かけたのは?」

「7時かな」

「それで、にこにこしてもどって来たのが、8時ぐらい。それから2時間ほどふたりで部屋にいた?」

MIKIは、それには答えずに、

「説得はされたけど、納得したわけではないのよ。本音は家に帰りたくなかった。・・・これって何よ、警察の取り調べ?。出火したのが9時半ぐらいでしょ。アリバイ調べならふたりとも完璧ね。お生憎さま」

MIKIは憎まれ口をきいたが、それほど怒ってはいなかった。

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