売られた花嫁(その13)
「家でお酒でも飲みながらお話しましょう」
MIKIは、半ば強引にわれわれをじぶんのマンションに連れ込んだ。
新築のきれいなマンションの2階の1Kだが、広々としたロフトふうの部屋で、家電品もインテリアもモノトーンにまとめた心地よい部屋だった。
ただ、花柄のレースのカーテンの窓際の寝乱れたベッドを見て、ドキマギした。
ブラック色の冷蔵庫から缶ビールを2本取り出したMIKIは、
「ああ、お酒は飲まないのね」
と言って、並んで座ったソファーの横の丸テーブルに、二つの缶を並べて置いた。
隣に座るうら若い美女の甘い香りが漂う部屋にあまり長居はできない、と思ったので、
「押し倒されて頭を打ったのか、頭を打たれて倒れたのか。そこはどうです?」
と早口でたずねると、
「それが、ひどく酔っていて、まったく覚えてないの。・・・案外、酔って転んだのかもね」
などとMIKIはあいまいに答えた。
「ふつう、酔ったらタクシーで帰るとか、お客さんが送ってくれるとかではないですか?」
夜の世界のことはまるで知らないが、そんな当てずっぽうを言うと、
「社長さんは、以前は、ちょくちょくタクシーで送ってきてここに泊まってそのまま会社に出勤していたけど、・・・奥さまにばれてからは、ちょっとね」
そんな男と女の生々しい話をすると、MIKIは苦い顔で缶ビールを飲み干した。
「・・・誰かに殴られたとして、犯人に覚えはありませんか?」
二本目の缶のプルトップを引きながら、
「前にも言ったでしょ。ライバルはたくさんいるのよ。・・・それこそ星の数ほど」
MIKIは答えたが、星の数とは、いかにも漠然としすぎている。
「木下社長とは、やはり結婚されるのですか?」
・・・世の中には、やたら結婚をちらつかせて女を口説く性悪な妻帯者も、それこそ星の数ほどいる。
横に座るMIKIをよく見ると、若々しい可憐な顔でいて、男を磁石のように引き寄せるふくよかなからだの魅力的な女だった。
だが、・・・いかにも男に騙されそうな、気のいい女のようにも見えた。
「結婚?それは、もうまちがいないわ」
確信あり気に言うMIKIに、どうまちがいないのかをたずねる気にはなれなかった。
「ああ、こうしない」
二本目の缶ビールをひと口飲んでから、
「危ない目に遭いそうになったら、あなたの携帯に電話をする。そうしたら、あなたは、そのスーパードッグといっしょに駆けつける。駆けつけ料として、都度1万円払う。・・・どう、これで?」
とMIKIは提案をした。
可不可に確かめるまでもなく、『そんな私設警察みたいなことはできない』と断ろうと思ったが、大きな目をキラキラ輝やかせて必死に訴えるMIKIの魅力にはどうしても勝てなかったので、あいまいにうなずくしかなかった。
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