売られた花嫁(その14)
MIKIを後ろから殴った犯人は、殺された浪人生ではありえなかった。
では、誰がじぶんを殺そうとしているのか、MIKIは言い当てられなかった。
MIKIは、じぶんを殺したいと願う人間は星の数ほどいるとおびえていた。
それは、MIKIの被害妄想か、それとも誰かをかばっているかのいずれかだった。
・・・いずれにしても、私設警察が出動することなどありえない。
翌日の夜、木下社長は、歌舞伎町のMIKIの店には行かずに、六本木のキャバクラで遊び、午前零時には若いホステスたちに見送られて店を出て、タクシーで目黒の自宅へ帰った。
夫人はシルバーメタリックのBMWで六本木へ向かい、夫がホステスたちに見送られて店を出るのを確かめると、夫より先に自宅へもどった。
次の日は地元の赤坂のクラブで遊び、これまた午前零時には店を出た。
さらに次の日は銀座。
そのあとは、上野まで足を延ばして、毎晩客筋や友人や会社の幹部などと遊び歩いていた。
夫人はその都度BMWで駆けつけて、アフターで女の子を連れ出さないのを確認すると目黒の自宅へもどった。
木下社長の夜の行動は、すべて社長秘書の内海嬢が事前に律儀に教えてくれたし、社長のGPSポインターは行動の軌跡を忠実に示した。
片や、夫人のGPSポインターは常に目黒で固定されていた。
おそらく夫に行動を知られたくないので、本来の携帯は家に置き、二台目の携帯に夫のGPSの位置情報アプリを入れているのだろう。
これだと夫の行動は分かっても、じぶんの行動は夫には知られない。
おそらく木下社長は、それを知っていて、じぶんに尾行させてGPSポインター代わりに都合よく使っているのだろう。
だが、盛り場のクラブなどで連日連夜遊び呆けるが、ホステスをアフターなどに連れ出さずに真っすぐ家に帰る。
これは何だろう?
木下社長は、じぶんがもてるのを見せつけるが、MIKIも含めてアフターに連れ出すような特定の深い関係の女はいないと、奥さんに暗に教えたいのだろうか。
・・・だが、MIKIは、木下社長とは何があっても結婚すると明言した。
その自信はどこから来るのだろう?
一週間もそんな振る舞いを見せつけられると、夫婦の間の猿芝居だか茶番劇に付き合わされているようで、尾行など馬鹿馬鹿しくてやってられなくなった。
秘書の内海嬢によれば、木下社長は、土曜日は毎週接待ゴルフだそうで、日曜日は終日家にいて、奥さんと付き合うらしい。
なので、週末の尾行はないはずだったが、・・・ちょうど今から寝ようと思っていた土曜日の早朝に、秘書の内海嬢から電話があった。
・・・木下社長は朝からゴルフに出かけるが、夫人を半日尾行してほしいということだった。
否も応もなかった。
時給は30%増しにするとか・・・。
しかしこれは何も特別なことではない。
深夜と週末に働けば、30%割り増しは法律で決まっているので。
土曜日も尾行のアルバイトをするなどと可不可に言うと、何を言われるのか分からないので、何も言わずにオンボロ車で家を出た。
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