売られた花嫁(その12)

私鉄の高架に沿って車を走らせていると、頭上を電車が通り過ぎていった。

「ああ、今のが終電か」

ひとり言のようにつぶやくと、

MIKIは腕時計を見て、

「いいえ、終電はもう一本あとよ」

と言った。

さらに車を走らせて最寄り駅の近くまで来ると、終電が追い抜いていった。

駅前広場に着くと、ちょうど終電を降りた乗客が駅のエントランスから吐き出されたところだった。

時計を見ると零時30分だ。

不意に思いついて、

「下着泥棒に襲われた夜、どこかに寄りませんでした?」

とたずねると、

「いいえ」

とMIKIは即座に答えた。

急行や特急の停まらない駅なので、駅前に点在するお店はすでにシャッターを下ろしていて、これだと寄り道のしようがなかった。

車を降りて歩くように頼むと、MIKIは素直に車を降りて歩き出した。

ゆっくり車を走らせてMIKIのあとをつけ、下着泥棒に襲われた駐車場に着いた。

時計を見ると、零時50分だった。

相変わらず駐車場に明かりはなく、あの夜と同じように、白いセダンが奥に一台駐車していた。

先の四つ角の街路灯の点滅していた蛍光灯は、新しいものに換えられていたが、それでも明るくはなかった。

「MIKIさんが我が家に助けを求めてやって来た時間から逆算すると、襲われたのは午前1時ちょうどぐらいです。終電を降りて真っすぐここへ来ると、午前零時50分。ですから、10分の空白があったことになります」

「へえ、10分も・・・。下着を奪われるのに気がついて、すぐに目が覚めたような気がするけど・・・。でも、それって、午前1時よね。零時50分に浪人生に押し倒されて気を失ったのなら、あの浪人生はその10分間何をしていたのかしら?」

駐車場の暗闇の中で、MIKIは小首を傾げて考えていた。

「・・・でも、ずいぶんね。お医者さんをめざす学生さんが介抱もせずに、下着だけ奪うなんて」

「彼は浪人生で、まだ医学生にもなっていません。それに、あなたは酒臭かったので、酔っ払い女が寝込んでいると思ったのかもしれません。この駐車場で待ち伏せして、零時50分に、あなたを殴り殺そうとした人間がいた。昏倒していたあなたを見つけた浪人生は、これ幸いと下着を奪った」

「誰かが私を殺そうとしたわけ?」

「ライバルに殺されると、あなたはおっしゃっていましたよね」

「まさか、そんなことが・・・」

あれほど殺されると公言していたMIKIなのに、いざそうなると、現実を受け入れることができないようだ。


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