売られた花嫁(その44)
「変態趣味はどうかなあ・・・。MIKIさんと内海嬢には内緒しておきたいのは当然だろうが、お互いに、世間的にも奥さんを売り買いしたなどと悪評を立てられなくないだろうしね。成瀬氏はお金持ちだから、愛人は大勢いたかもしれない。その愛人たちの間に波風を立てたくなかったのか?・・・そのままの形で関係を続けたほうが賢明だと両者の思惑が一致したはずだ」
「でも、それってやはり推論です。ゴシップでしかないです」
それはその通りだ。
うなずくしかない。
「それを知った今は、事件の見方がどう変わったかが重要です」
可不可にそう言われては、ぐうの音も出なかった。
「MIKIさんと内海嬢の話が出たけど、木下社長が内海嬢にMIKIさんを殺させようとしたと考えるのはどうだろう。MIKIさんが重荷になってきたので、さ」
「それも推論ですよね」
可不可は、せっかくのひらめきも一蹴した。
「ああ、そりゃ推論さ。極悪非道な木下社長が、結婚を迫る愛人を、もうひとりの愛人を使って始末しようとした。MIKIさんを殴り倒したところを、浪人生に見られて逆上して殺した。・・・内海嬢が単なるジェラシーからMIKIさんを殺そうとしたというよりもストーリー性がある」
などと開き直ったので、可不可は呆れたのか、何も言わなくなった。
「内海嬢が失敗したので、結婚の条件として辻本さんに1億円の生命保険に加入させ、自殺を装って殺した。MIKIさんに手切れ金として、この保険金の1億円が渡るということで話をつけようとしたが、MIKIさんは結婚すると言い張ったので、木下社長は100日後に結婚する約束をするしかなかった。でも、MIKIさんの姿が見えなくなった。もしかして・・・」
悪い考えが頭に浮かんで思わず身震いした。
・・・可不可は考え込んでいたが、
「辻本氏の1億円の保険金ではないですが、死んだ成瀬氏全財産は、元木下社長令夫人が受け継ぐということですよね?」
と重い口を開いてたずねた。
可不可のことばに、思わず「あっ」と叫んだ。
「夫人は、籍の入ったれっきとした正式な妻だからね。ああ、それで成瀬氏と再婚したことを黙っていたのか!・・・辻本氏の1億円の保険金どころの話ではないよ。木下社長は、夫人に成瀬氏の財産を相続させるために、愛人ではなく花嫁として売りつけておいて成瀬氏を殺した。これが殺しの動機だ!」
いつしか、じぶんのことばにじぶんで酔っていた。
「・・・いや、いや、それだけではない。離婚したふたりが再婚したら、成瀬氏の財産の半分は木下社長のものにもなる。これだと、木下社長は未来永劫MIKIさんと結婚なんかできないよ!」
脳味噌が沸騰して、思わず知らずに大きな声で叫んでいた。
可不可は、じぶんで殺しの動機の話をしておきながらその場で凍りつき、「それは推論です」などと二度と言おうとはしなかった。
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