売られた花嫁(その45)

翌日の犯罪ネットに、木下社長秘書の内海嬢が退勤時に、地下鉄赤坂見附駅で電車に轢かれ死亡とあった。

「警察に追いつめられてダイブしたのだろうか?」

ひとりごとのようにつぶやくと、

「他殺に決まっています。警察が泳がせすぎたのです。早くに逮捕すべきでした」

可不可がめずらしく感情をあらわにした。

最近の可不可は、人間の感情を学習してやや喜怒哀楽を表現するようになっていた。

「MIKIさんも心配です」

と可不可が真顔で言うので、泉田刑事の携帯に電話をした。

だが、呼び出し音が鳴るだけで応答はなかった。

MIKIが住んでいたマンションの管理をする不動産会社を駅前にたずねたが、個人情報ということで、何も教えてくれなかった。

やむなく、この会社のWEBサイトにハッキングして賃貸者の情報をさぐり、本名、生年月日、携帯番号などの情報を手に入れた。

最新の引っ越し先は、蒲田の辻本の家の住所になっていた。

勤めていた新宿のキャバクラのWEBサイトをチェックした。

赤いドレスを着てにこやかに笑いかけるMIKIの上半身の写真とスリーサイズが表示されるだけで、他には何の情報も得られなかった。

ためしにMIKIに予約を入れてみたが、予約不可と表示された。

夕方になって、お店に電話を入れたが、

「しばらくお休みです」

とマネージャーはけんもほろろだった。

木下社長にたずねるのがいちばんの近道だが、どう切り出したらいいか見当もつかなかった。


深夜零時を過ぎたころ、突如、MIKIから画僧が送られてきた。

純白のウエディングドレス姿の女がチャペルの尖塔から吊り下げれた写真だった。

ロープが食い込んだ首をうなだれ、両手両足をだらりと垂らしているのはどう見てもMIKIだった。

携帯を呼び出したが、数コールで呼び出し音は途絶えた。

何度も呼び出したが、この携帯は電源が切れたのでつながらないというロボットの定まりの音声が流れるだけだった。

泉田刑事の携帯にMIKIのメールの画像を転送して、電話もしたが、いくら待っても応答がなかった。

「行くだけ無駄です」

可不可は止めたが、車庫からオンボロ車を引き出して、ともかく目黒へ向かった。

行く先は、辻本とMIKIがかりそめの結婚式を挙げた住宅街の中にある教会だ。

水面に浮かぶ月が揺らめく池を迂回しながら、ふと夜空を見上げると、そびえ立つチャペルの尖塔から、白いドレスの女が吊り下げられているのが目に入った。

あわてて車から飛び降りてチャペルに駆け寄ると、純白のウエディングドレス姿で首を吊ったMIKIが、扉の上のテラコッタの白壁を背にして、風もないのにゆらゆらと揺れていた。


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