売られた花嫁(その46)
送られて来た画像と同じように、ロープを首に巻いたMIKIが、首と両手両足をだらりと下げてチャペルの尖塔から吊り下げられていた。
ジャンプして飛びつこうとしたが、裸足の足にわずかに届かない。
ぴんと張ったロープが、チャペルの尖塔から裏へ垂れているのを確かめ、教会の裏手へ回った。
フェンスに囲われた裏庭の繁みの中に、ロープの尖端が隠れているのを見つけ、可不可にフェンスを飛び越えさせた。
すぐにもどって来た可不可は、
「ロープが木立の根元に固く縛りつけられていて外せません」
荒い息を吐きながら言った。
ロープを切るしかなかったが、あいにく道具がなかった。
・・・やむなく110番通報した。
すぐにやって来たパトカーの警察官が、裏庭のフェンスを乗り越えて、木立の根元に鎖で縛りつけられたロープを外して、MIKIを下した。
チャペルの前に横たえられたMIKIの死顔は、眠るように穏やかだった。
パトライトを回したパトカーが3台と救急車がやって来て、警察官と救命救急士がやるべきことを粛々とやりはじめた。
泉田刑事から電話があった。
事情を話すと、
「チャペルに・・・」
泉田は絶句した。
「今から木下社長のマンションに行ってみます」
と伝えると、
「彼は、いつもアリバイだけは完璧だからね」
と泉田は皮肉を飛ばした。
明日というか今日の朝イチに目黒署に出頭する話になったので、可不可に裏庭を走らせて匂いを収集させた。
木下社長のマンションの下に車を停めて5階の窓を見上げたが、厚地のカーテンで部屋に明かりがついているかどうか分からなかった。
半地下の駐車場に、愛車のダークシルバーのBMWは停まっていなかった。
「木下社長のオーディコロンの匂いがしました。それに・・・」
車を走らせるなり、可不可が言った。
「別の人間の匂いが?」
「ええ、裕史さんは信じないかもしれませんが・・・」
可不可は言い淀んだ。
その鋭い目を見つめ返すと、
「木下社長令夫人の匂いがしました」
可不可はきっぱりと言った。
・・・これにはまいった。
朝イチで目黒署に出頭しなければならないので、寝ている時間はなかった。
家に帰るとすぐに、ふたりでミーティングをすることにした。
台所で漁った食パンとマグカップになみなみとドリップしたコーヒーと煙草の箱を自室に持ち込み、可不可と向き合った。
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