売られた花嫁(大団円)

「木下社長と夫人は、、はじめから成瀬氏殺人をいっしょにプランを立てて実行したのだろう。辻本氏殺し、内海嬢殺しMIKIさん殺しはそこから派生した偶発的な殺人だった」

そう言うしかななかった。

「どうされます。警察に話します?」

警察犬として試作されたアンドロイド犬だが、可不可は警察という組織をいまだに信用していない。

「いや、この話はすでにあちこちの警察に何度も話したが、真剣に話を聞いてくれたのは所轄署の泉田刑事だけだった。君が言ったように、しょせんは完全犯罪を装った素人の殺人さ。次から次へと木下社長が思いつきで引き起こす殺人に目くらましされているが、警察はとっくにお見通しで、証拠集めは着々と進んでいるはずだ。・・・だが、これで打ち止めだ。MIKIさんをチャペルに吊り下げた写真を送って来たのが致命的なミスだったね」

「犯行声明のつもりだった・・・」

「そうだね。それも一瞬の思いつきで。・・・もっと聡明なひとかと思ったが、憎いライバルを討ち取ったという感情の高ぶりが抑えられなかったのだろう」

「狂おしいほどの嫉妬心」

可不可の口から、そんなおどろどろしいことばを聞くとは思わなかった。

「木下社長は金目当てにこのスキムを考えたが、夫人は夫を独り占めにしたかっただけだ。それで言いなりになって動いた。夫人は、完全犯罪とかはどうでもよかったし、いつかは捕まると覚悟はしていたと思うよ」

「では、警察には、さっきまで話し合った殺人推理のことは何も言わないのですね?」

「ああ、そうだよ。泉田さんがアドバイスしてくれたように、見たまま感じたままに話すだけだ」


目黒警察署で長い時間事情を聞かれて、事実のみを淡々と語った・・・。

数日して犯罪ネットを立ち上げると、MIKIさん殺しの重要参考人として木下社長らしき人物が取り沙汰されていた。

・・・これは、警察の自信をもったリークだと思った。

木下社長は、翌日の名古屋での朝イチの会議のために、プレゼンの機材を積んだBMWで、幹部とともに赤坂の会社から22時すぎに名古屋のホテルに向かって出発していた。

アリバイは完璧のはずだったが・・・。

「この程度のアリバイ工作で警察を騙せると思った木下社長も、大甘だね」

傍らに座る可不可に言うともなく言うと、

「しょせん欲に駆られて、じぶんに都合よく考えた殺人計画など、砂上の・・・、ああ、何と言いましたっけ?」

「砂上の楼閣」

「ああ、その砂上の楼閣です」

可不可はすまし顔で言った。

「悪意ある者は、悪意によって、その視野はせばめられる」

「何ですか、それ?」

「カフカの名言、だったかな?」

口にはしてみたが、自信はなかった。


(了)





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

売られた花嫁~引きこもり探偵の冒険9~ 藤英二 @fujieiji_2020

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ