おもしろくて一気読みしてしまいました。
ご存知の方も多いでしょうが、レビューを書かせてください。
人を惹きつける作品というのは、こういうふうについつい一気に読んでしまう作品なんだなあ、と思いました。
そして、「こわい話」なんですが、根底にあるのは
人間が持つ業(ごう)とか、愛憎とかそれゆえの悲哀だと思いました。
人間のこころの絡まり具合が実にうまく描かれていました。
そして、ものすごく悲惨な話になりそうだけれど
志朗さんのキャラクターが、物語を救いのあるものへ引き上げているように感じました。
志朗さんのファンになりました!
とってもかっこいいのです。飄々としていて。独特な語り口で。
私は同作者さんの「まりちゃんは檻をつくってる」を先に読んでおり、本作はその前日譚にあたるようなお話に思えました。
なので「まりちゃん〜」を読まれる際はこちらを読んでからだとよりスルッと物語が入ってくるように思えます。
もちろん、「まりちゃん」から先に読んでも楽しめます。
いじめにあっていた女の子がある日を境にいじめられなくなったどころかお姫様扱いされるようになり、最初は良かったのですが段々とその異様さに気づき怖くなっていきます。
まとまった説明パートはなく、文章の中にちらばった真実を見つけて納得するようなお話です。
ですが目を凝らして、構えて読むことなくするすると物語が入ってきて自然と繋がっていく読みやすいつくりになっています。
お化けが出てきて怖いというより、人が怖いホラーです。
最近変わったことはありませんか?
それはもしかして…
古来、名付けとは呪であるとされる。たとえどれほどまでに恐ろしい力を持った存在であろうとも、その正体が分かってしまえば、その者に名前を与えてしまえば、必ず、恐怖というものは薄れ、そして名付けたものが優位となる。
文学におけるホラーというジャンルにおいて、これはもっとも重要で本質的な問題の一つだ。文学というものは還元してしまえばつまるところ情報の集合体であり、他人におのが言わんとすることを知ってもらわないことには文筆は成り立たないし、読書という体験も始まらない。だが、知られてしまえば、知らせてしまえば、必ず呪は薄れる。ここに、ホラー小説の抱える構造的な難しさがある。つまり、情報の開示をいかにコントロールし、読者を術中に陥れるかということが、ホラー作品のもっとも中核的要素の一つなのである。
具体的には、多くの場合、「少しずつ、少しずつ、情報が開示され、そしてじっとりと恐怖が読み手を侵食していく」という形が成功するときにホラーは成功する。終わってから粗筋を振り返り、物語構造を分析し直しても、そこから恐怖を見出すことは難しい。ただ一過性の読書体験の中で「背筋を伝った何か」、それこそがホラーの体験というものの本質であろう。
そして。
本作品ほど、巧妙を極めて情報の制御に成功し切った文学作品に、お目にかかったのはいつ以来のことであるか、私には分からない。嗚呼。久しぶりに、小説に呑まれるという経験をした。これがあるから、「よむ」という行為は止められないわけである。
読みやすい小学生視点の語り口や、淡々としている文章がじわじわと想像力を掻き立ててくる絶妙なホラー作品。読んでみた感想はまず「これはすごい!!」の一言。
主人公のひかりは、転校初日にクラスのアイドル的存在の「ありさちゃん」に「こわい話、すき?」と聞かれ、きらいと答えたことから新しくて楽しいはずの学校生活が様変わりしてしまう。
家に帰ってもひかりの心安らげる場所はあまりなく、押入れの中にいる「ナイナイ」が心の拠り所のような存在に。
だけどそんな日常は、ありさちゃんがひかりの家に「ナイナイ」を見に来た日から一変していく——。
純粋無垢な「悪意」や「怖さ」、そして人の醜さや恐ろしさが幾重にも重なって、真相に辿り着くとゾッとすること間違いなし。
そこにはどこかやるせなくて、悍ましい真実が隠されているのだけど、登場人物たちのどこか明るい性格や達観した感覚、そして純粋さがドロドロとして見せないところもこの物語のすごいところ。
章が変わる度に視点が変化するのも見所で、「どういうことだろう?」という部分が後半になるにつれ交差して、綺麗にまとまっていくところもお見事。
ノープロットでこの完成度、まさに著者の筆力がなせる技でしょう。
ラストがここに繋がるかー! というのも最高でした。
ねぇ、あなたはこわい話、すき——?
こわい話はきらい。でも、おばけは怖くない。なぜならこわくないおばけを知っているから。
小学校四年生のひかりの生活はもう惨憺たるものです。けれどもう達観というか諦念してしまっているのか、彼女が世の中を見つめる目はとても淡々としています。
彼女が唯一安らげる押入れの奥にいる「ナイナイ」。どう考えてもヤバそうなそれを、いじめっ子だったありさが見にひかりの家にやってきたことから物語は大きく動き出します。
作中で起きている事件は結構悲惨なのですが、登場人物たちがみんな飄々としているので、読んでいるこちらとしては何だか「こわくないおばけ」を見ているような気がしてしまいます。
人の執着心や悪意、怨念じみたものが渦巻いているけれど、それがオブラートに包まれているように……見えているのに少し遠い。直視するとゾッとするけれど、先が気になって薄目で見てしまう。
そんな、こわいけどこわくない、でもやっぱりちょっとこわいお話でした。
あ、あとこれだけは言いたいんですが、一見人畜無害そうな神谷さんのぶっとんだ脅し方が最高でした!
見切り発車と言っているのでプロットなしで書いてるんですよね……毎日投稿で10万文字以上の作品書ききるなんて凄すぎる。
作者様は短編の数もすごいんですが、本作も含め全てセンス抜群です。国語力が高くて文章の「てにをは」がしっかりしてるので、とにかく読みやすい。ちゃんと怖くて、表現や構成のセンスも良くて、しかも読みやすい。このまま書籍化できちゃうよねと思ってしまう。挿絵は……ラノベっぽい奴じゃなくて真鍋博(星新一の作品の挿絵書いてた人)みたいなのが似合うと思う……なんて、そこまで妄想してしまいました。
本作を読んでて星新一の長編「夢魔の標的」を思い出しました。内容に共通点があるんじゃなくて、文章を読んでいる途中でハッと後ろを振り向いちゃうんですよね。なんか居るわけでもないのに。読者にリアルに警戒行動を取らせてしまうほど、本作の不気味さは刺さります。公式さんがレビューつけてるぐらいなのですでに注目されてるのかもしれませんが、本当におすすめの作品です!