【「餓狼、荒野に死すーライ麦畑の殺人者ー」エピローグから引用】
「つまりさ、よく前を見ないで崖の方に走っていく子どもなんかがいたら、どっからともなく現れて、その子をさっとキャッチするんだ。そういうものを朝から晩までずっとやっている。ライ麦畑のキャッチャー、僕はただそういうものになりたいんだ」(注1)
じぶんは、ホールデン・コールフィールド(注2)がなろうとする、ライ麦畑のキャッチャーではない。
なろうとも思わない。
餓狼は、そのライ麦畑のキャッチャーとやらになろうとしたのかもしれない。
しかし、真逆の殺人者になってしまった。
(注1)J.D.サリンジャー「キャッチャー・イン・ザ・ライ」(村上春樹訳)の「22」から引用
(注2)同書の語り手で主人公
「キャッチャー・イン・ザ・ライ」の語り手のホールデン少年が、ライ麦畑のキャッチャーになりたいと告白する相手は、妹のフィービーだ。
ホールデンといっしょに家出するというフィービーは、ホールデンが唯一愛する純粋無垢で一本気な少女としてサリンジャーは登場させた。
ホールデンは本気でライ麦畑のキャッチャーになりたい訳ではないだろう。
偽善だらけの周囲の大人に反抗して、「純粋無垢でいたい」というホールデンの魂の叫びが、「ライ麦畑で出会ったら」のまちがって憶えた歌詞に託して、こころに響く場面だ。
If a body meet a body,
Comin’ thro' the Rye,
If a body kiss a body,
Need a body cry?
Every lassie ha her laddie,
Nane, they say, ha' ha'e I;
Yet a' the lad they smile on me,
When comin' thro' the Rye
(Robert Burns)