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六月の花嫁は二度死ぬ~快楽の報酬~「あとがき」

「実体験ですか?」
と、よくたずねられる。
「・・・ディテールがよく書かれているので」
と、必ずいわれる。
これには、YESともNOとも、うかつには答えられない。
それらしい(読書体験も含めて)体験なしに、ひとが面白がるリアリティーが勝負のミステリーも書けないし、夜店の屋台よろしく事実を並べ立てれば面白い小説になるわけでもない。
出版社から依頼されて書く偉人伝や経済小説ではないので、(エンタメ小説とはいっても)じぶんの時間を削ってまでパソコンに向かって書き続けるには、まず、じぶん自身が面白いと思う素材でなければならない。
となると、じぶんを素材とするなら、興味もあり、リアリティーには事欠かない。
しかし、これは、じぶんの愚かな思考回路と欲望の行跡を白日の下にさらけ出すことになり、銀座四丁目の交差点に丸裸で立つと同じぐらいに、かなり恥ずかしいことだ。

ミステリーには、ひとのお手本になるような人間はまず登場しない。
それとは真逆の、おのれの欲望に忠実に生きる殺人者や犯罪者などが、これでもかと登場する。
「人の振り見て我が振り直せ」
くらいしかミステリーの実人生への効用はなく、読者の貴重な時間を奪う犯罪者”TIME EATER”でしかない。
もっとも、暇つぶしであれ何であれ、最後のページまで読んでいただければ、それはそれで、ミステリー作家の勝利となる。

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