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村上春樹 柴田元幸「サリンジャー戦記」を読んで

「彼(サリンジャー)は、戦争末期にドイツ軍の強烈な反攻があったときに、ヒュルトゲンの森の戦いとバルジの戦いで、いちばんきついところにいたんですが、それについては直接的なことは一切書いてません」(村上春樹)
「まだ足場のない、相対的な世界の中で生き惑っている人に、その多くは若い人たちなんだけど、自分は孤独ではないんだという、ものすごい共感を与えることができるということなんですね。それは偉大なことだと思うな」(村上春樹)
【村上春樹 柴田元幸「サリンジャー戦記」(翻訳夜話2)】より抜粋
この対談集を読むと、連合軍の一員のサリンジャーがノルマンディー上陸からベルリンへ攻め上がる過酷な戦いの中で精神を病んだと書いてある。
桜庭一樹さんも私も知らなかっただけのことだ。
崖の上のライ麦畑のキャッチャーになろうという決意も、ノルマンディー上陸作戦の兵士を守るという文脈だけでとらえるのは無理があるようだ。
小説全体の文脈である、子どものような純粋無垢さを命懸けでまもる決意ととったほうがよさそうだ。
村上春樹は、翻訳の際に原文の英語をカタカナ表記のままにした理由を述べている。
分からなくもないが、英語の達人の発言にしては、どうかと思う。
二葉亭四迷とまでとはいわないが、言語のニュアンスを日本語にうまく置き換えるのが、翻訳者の醍醐味ではないだろうか。
特に、題名の”The Catcher in the Rye”だけは日本語にしてほしかった。
野崎孝訳の「ライ麦畑でつかまえて」に比べて、すでにそこで負けているような気がする。

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