売られた花嫁(その19)

「今すぐ来て!」

ある夜の午前零時過ぎに、駅前広場にいるホステスのMIKIから携帯にSOSが入った。

すぐに可不可を連れて駅へ向かった。

MIKIは、駅の閉まったばかりのシャッターの前に黒いワンピース姿で立っていた。

終電を降りてしばらく歩いた暗い道で、ヘッドライトを消した車にひき殺されそうになったMIKIは、街路灯の明るい駅前広場にもどっていた。

だが、それらしい車は、あたりには見当たらない。

とりあえず、MIKIのマンションへいっしょに行って、缶コーヒーを飲みながら、ビールの相手をすることにした。

「来月結婚するので、もう危ない目には合わないとは思うけど・・・」

二本目の缶ビールに手を伸ばしたMIKIは、聞きたくもない結婚話をはじめた。

つい先週の土曜日に、その結婚相手とゴルフをしたと言うので、

「もしかして、木下社長もいっしょでした?」

と当てずっぽうを言うと、MIKIはどうしてという顔をした。

「千葉で、3人で?」

どうでもいいことをたずねると、

「いえ、4人よ。社長秘書の内海さんもいっしょ。もっとも女性2人はビギナーもいいところ。でも、その結婚相手の辻本さんはプロ級の腕前よ」

「結婚したら、いくらでもゴルフを教えてもらえますね」

はしゃぐMIKIにそう話を向けると、

「でも100日で離婚よ。100日でゴルフうまくなるかしら」

MIKIは能天気に離婚のことを口にした。

「辻本さんってどんなひとです?」

少し意地悪な質問をすると、

「技術者で、木下社長の仕事上のパートナー。すごくいいひとよ。・・・でも、生真面目すぎて何か近寄りがたいわね」

MIKIは可愛らしい女だが、頭の中のモラルの回路はどうなっているのだろうと正直思った。

「ああ、さっきの怪しい車って、ほんとうにMIKIさんをひき殺そうとしたのですか?」

と話をそこへもどすと、MIKIは少しばかり勘違いをしたようで、

「あっ、そうそう、これね」

と言って、財布から、1万円札を2枚取り出し、

「1枚は今日の分。1枚は、あの下着泥棒の時の分よ」

と言って差し出した。

MIKIは、どうやら結婚が決まって気前がよくなったようだ。

「・・・ああ、あの車を運転していたのは、どうも女のようだった」

MIKIは、やっと肝心のひき逃げのことを思い出し、

「どんな女のひとです?」。

とたずねると、

「大きなサングラスをした長い髪の・・・、でも暗くてよく分からなかった。・・・たぶん知らない女ね」

と妙に明るい声で答えた。

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