売られた花嫁(その29)
「余計なことですが、離婚しかないですね」
MIKIが困っているのを見て、つい本音を口にした。
「でも、結婚したばかりよ。それに100日しないと離婚できないでしょ」
「ああ、それはまちがいです。これはMIKIさんのためを思って指摘しなかったのですが・・・」
「もっと早く離婚できるわけ?」
「極端な話、結婚式をあげた翌日にだって離婚はできます」
「まさか!・・・じゃあ100日って何よ」
「それは離婚した女性が再婚できるまでの日数のことです。結婚中に妊娠して、すぐに再婚したら、生まれてくる赤ちゃんの父親がどちらか分からないからです。ですから離婚して100日経たなければ再婚できないと法律で決めているのです」
「へえ、知らなかった。・・・でも、貞操帯なんかしてるんだから、赤ちゃんなんかできるわけないでしょ。じゃあ、今日にでも辻本さんと離婚して、社長さんと結婚できるわけ」
「まあ、法律的にはそうです。ただし、互いに合意すればの話ですが・・・」
「確か、裁判に持ち込むこともできるわね?」
「裁判はハードルが高いです。まず家庭裁判所で調停にかけられて、・・・ああ、離婚を訴える方が浮気をしていては、裁判所は受け付けませんよ」
MIKIはぎゃふんという顔をした。
「何よ、離婚しろと言っておいて」
「それは、あくまで一般論として言っただけで・・・」
「一般論が何よ、すべてMIKIの話でしょ」
今度は、こちらがやり込められる番だった。
・・・だが、そこまで親身になって相談に乗る気にもなれなかった。
「辻本さんと話し合ってみる。離婚に合意すればいいんでしょう。さっきのあなたの話だと、離婚した時点で妊娠していなければ、すぐに結婚できるということでいいのよね。裁判所だか区役所に貞操帯を持ち込んで、結婚中にこんなものを着けていたので妊娠なんかしていませんと言えばいいのよね。・・・ああ、社長さんはそこを考えて貞操帯を着けて結婚させたのね」
木下社長の真意はそこにはないのは明らかだが、・・・MIKIは、木下社長を、森に囚われた王女を救いに来る白馬の王子とどこまでも信じきっているようだった。
「妊娠していないという医者の証明書を提出すれば、すぐに再婚できます。でも、その前の辻本さんとの協議離婚は簡単ではないでしょうし、木下社長と再婚するには、社長は奥さんと離婚していなければなりません。ハードルはすごく高いです」
どうでもいいことだが、能天気なMIKIに呆れて、冷水を浴びせかけてやった。
MIKIは証明書の話を聞くと、ぱっと顔が明るくなったが、離婚と再婚の話になると、暗い顔にもどって考え込んでしまった。
「でも、社長さんは、必ず結婚すると約束してくれた・・・」
とMIKIは口ごもりながら言った。
・・・『それでも地球は回っている』と、宗教裁判で答えるガリレオ・ガリレイのように。
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