売られた花嫁(その28)

「辻本さんが死亡時受取人をMIKIにした1億円の生命保険に加入すれば、貞操帯の鍵を渡すと木下社長が言ってるの」

「木下社長が直接辻本さんへ?それとも、MIKIさんが辻本さんが?」

「さりげなく、私が・・・。辻本さん、すぐに保険に入ってくれた。いいひとね」

MIKIは、こんな話をするために、わざわざやって来たのだろうか?

「でもね、社長さんなかなか鍵を渡さないのよ。辻本さんに悪くって・・・」

MIKIにしては歯切れが悪かった。

「MIKIさんは、木下社長とはまだ会ってるんですか?」

「・・・・・」

ミニスカートの膝頭に両手を揃えてかしこまるMIKIを見て、

「確かに、それだと辻本さんに悪いですね」

なじるように言うと、MIKIは今にも消え入りそうになった。

・・・節操のない女だと思っていたが、罪悪感は感じているようだ。

「たとえばだけど・・・、鍵を盗めないかな?」

真面目くさった顔でMIKIがつぶやくように言った。

「木下社長から、僕がですか?」

「・・・あはは、無理よね」

MIKIは、ぺろりと赤い舌を出した。

「その貞操帯とやらの製造メーカーからスペアキーを手に入れるとか?・・・ああ、ダメですね。お金を払ったのは木下社長でしょうから」

ふたりは向き合ったまま黙り込んだ。

「僕が言うことじゃありませんが、・・・そもそもこの結婚は、はじめから無理がありますよ。じぶんの、その、・・・思い人をパートナーに花嫁として売るなんて」

愛人と言いたかったが、ここは思い人と言い換えた。

「・・・売るなんて、そんなことはないわ」

「でも、MIKIさんは、前に、喜んで売られた花嫁になるとおっしゃっていましたよね」

「ああ、あれは、あくまでことばのアヤよ。それに、今になって、生命保険の話が出るくらいだから、辻本さんは社長にお金を払っていないはずよ」

「MIKIさんの知らないところで、お金のやりとりがあったのかもしれません。おふたりは仕事上のパートナーですから」

「だったら、鍵はすんなり渡ったはずよ」

とMIKIはむきになって答えたが、どこか自信なさ気だった。

「木下社長は、そもそも鍵を渡す気はないのかもしれません。あるいは、このままだと、とんだことになるかもしれません」

「とんだことって?」

「とんだことです」

と鸚鵡返しに答えると、

「どうすればいいの?」

MIKIは、不安そうにたずねた。

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