売られた花嫁(その30)

「それは木下氏の強烈な嫉妬心です」

MIKIが帰ると、可不可はアンドロイド犬なのに、人間心理の奥底を読んだようなことを口にした。

「会社の経営不振でさ、・・・経営資金欲しさに、奥さんを平気で成瀬氏に性奴隷として差し出しておいて、愛人を花嫁として経営パートナーに売りつける。いやはや、とんだ人間の皮をかぶった悪魔だね」

「でも、木下氏は断固として鍵を渡そうとはしません」

「引っ張るだけ引っ張って、鍵の値段を吊り上げようという木下社長の交渉術だろうよ」

「そんなものでしょうか?」

「ああ、そんなものさ」

さすがの可不可も、そこまでは読めなかったようだ。

「木下氏もひどいですね。MIKIさんを辻本氏に売り飛ばしておいて、MIKIさんとは結婚の約束をしています」

「ああ、そうだね。MIKIさんはその約束を信じて疑わない。辻本さんはMIKIさんと離婚はしないだろう。木下社長が花嫁に売った金を返せば別だろうが・・・。でも、とっくに使ってしまっだろうね」

「奥さんを、成瀬氏に愛人として差し出して手にした代金があります」

「なるほど。でも、法人同志の貸し借りなら返さなければならないが、奥さんを担保にした個人的な貸し借りなら、貸主が死んだら返さなくてもいいかもね。だいいち、奥さんを担保にした金の借り貸しなど成立しないはずだし・・・、ちょっと待てよ。リーク情報だと、警察はまだ強盗だか怨恨の線を考えているようだが、木下社長にもれっきとしたふたつの動機がある。ひとつは、成瀬氏を殺せば、借金がちゃらになる。ふたつ目は、奥さんを寝取られた恨みがある。もっともその原因を作ったのは木下社長そのひとだけどね。ああ、寝取る、寝取られるって分かるかな?」

それはあとで説明することにして、先を急いだ。

「ポイントはここだ、・・・夫人が成瀬邸の合鍵を持っている。コピーを作れば木下社長もいつでも出入り自由だ」

「おことばですが、木下氏はあの土曜日の午後は千葉県でゴルフでした」

可不可が名演説に割って入った。

そうだ、それを忘れていた。



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