売られた花嫁(その2)
「さあ、急いで」
可不可の鼻づらが部屋から覗いたのを目ざとく見つけた若い女は、スカートのお尻の泥を拭っていたタオルを放り出して駆け出そうとした。
「ちょっと待ってください。可不可に匂いを嗅がせます」
合図をすると、可不可は女のスカートに頭を突っ込んだ。
「きゃっ、エッチな犬」
押しのけるより早く、女のスカートを抜け出した可不可は、猛烈な勢いで玄関を飛び出した。
暗い路地を直進する可不可を追うのは骨だった。
ハイヒールを脱ぎ捨てた女も、必死になって追いかけた。
四つ角を曲がったすぐのところの駐車場で、可不可は待っていた。
車が4台ほど置けるだけの空きスペースに白線で四つのマスを描いただけの、機械設備も何もない月極めの駐車場で、左奥に白いセダンが一台停まっていた。
地面は簡易舗装なので、女が押し倒された跡が道路際にはっきりと残っていた。
「そうよ、ここよ」
やって来た女は、荒い息をつきながら叫んだ。
この先の曲がりくねった道を行くと私鉄の駅に出るが、高架になったプラットフォームの明かりは、終電が出たあとなので、とっくに消えていた。
終電を降りて駅から歩いて来たこの辺で、いきなり後ろから殴られたので、痴漢の顔は見ていないと女は言った。
そう言えば、この簡易駐車場には照明がなかった。
少し先の四つ角の切れかかって明滅する街路灯が、唯一の明かりだった。
可不可は引き返し、四つ角を左に曲がると、再び駆け出した。
500メートルぐらい走った可不可は、路地の入口で止まって我々が追いつくのを待っていた。
路地を入ったすぐのモルタルのアパートの階段を、可不可は駆け上がった。
階段の上がりはなの二階の部屋の扉がわずかに開いていて、明かりが漏れていた。
可不可が鼻先を突っ込んだ扉を全開すると、1Kの天井灯が、折り重なって敷き詰められた色とりどりのパンティやブラジャーを照らし出した。
その下着の山に埋もれるようにして、黒いレースのパンティーを頭からすっぽり被った男が、裸の下半身を剥き出しにして仰向けに寝ていた。
「あっ、あれ、私のよ」
いきなり男に駆け寄り、男の頭からパンティーを剥ごうとした女は、
「死んでる」
とその場にへたり込んだ。
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