売られた花嫁(その38)
「それは、ありえない。・・・たしかに、宅配便のドライバーの制服を着てインターフォンを押せば、たいていは開錠する。そこで、強盗に変身して成瀬氏を縛り上げた。警察のリークを信じれば、これは午前中のことだ。放火されて殺されたのが14時50分。最短でも2時間50分、あるいはもっと長い時間縛られていた。しかし、どうしてすぐに火を点けて殺さなかったのだろう?」
「そこは、宅配便のドライバーに疑いが向かないように、かつ、アリバイを作りたかったのではないでしょうか」
「では、どうやって火を点けた?」
ふたりは長い間考え込んだ。
「リモートか時限発火装置かのいずれかでしょう・・・」
可不可にしてはめずらしく自信なさげに言った。
「外部の携帯からリモートで、家電品のスイッチのオートオン・オフ機能を利用して発火させた。老人の寝室だから湯沸かしポットとか扇風機とか家電品は何でもある。リモートでそれらをオンにした時、発火させる細工はできます。あとは、時限発火装置のタイマーを、夫人がたずねて来る15時少し前にセットして発火させる」
「三つ目は、夫人が寝室に入ると、センサーが作動して自動発火するようにセットした。いずれにしても、何らかのオート発火装置をセットしたのはまちがいない。逆説的に言えば、もっとも確かなアリバイがある関係者が犯人ということになる」
「犯人は、令夫人が15時に成瀬氏を訪ねるのをあらかじめ知っていた」
可不可がめずらしく深くうなずいた。
「木下社長、辻本氏、内海秘書、MIKIさんの4人のうちのいずれか、あるいは金で雇われた第三者かです。でも、4人とも千葉で13時から15時過ぎまでゴルフをしていた確かなアリバイがあります。木下社長は11時前にMIKIさんを車でピックアップして千葉へ向かいました。他のふたりも同じはずです。4人が4人とも10時から15時過ぎまでアリバイがあります」
「理論的には、4人が共謀することもできる。誰かが遅れて来たとか、早く帰ったのを黙っているとか・・・」
「技術者の辻本氏は、リモートとかセンサーの技術のことは詳しいでしょう。じぶんでは組み立てなくとも知識は提供できます」
「なるほどね。でも、だんぜん放火殺人の強い動機を持っているのは、木下社長だろう」
「令夫人も同じです」
「さっき、夫人は火を点けなかったと確認したよね」
「裕史さんは、令夫人に好意を持っているので、犯人にしたくないようですね」
可不可が、とんでもないことを言い出した。
「な、何を言うんだ」
思わず否定したが、頬が火照って赤くなるのがじぶんでも分かった。
「好意を持つとか持たないとかは関係ないだろう。夫人が、犯人などありえない」
秘めた恋ごころをいきなり暴かれて、大いにあわててた。
「捜査に私情を持ち込むのは厳禁です。さっき、動機だけを見ればと言ったはずです」
私情というものがないアンドロイド犬は、冷たく言い放った。
・・・たしかに、夫人が成瀬氏を殺す動機は、木下社長と同じか、それ以上あったはずだ。
それは確かだ。
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