売られた花嫁(その41)

品川のホテルの最上階のレストラン街で鉄板焼きをご馳走してくれる話になったので、約束の午後6時に1Fのロビーで待ったが、MIKIは現れなかった。

携帯に何度電話しても出ないので、最上階の鉄板焼きの店に行ってみたが見当たらなかった。

店には、MIKIという名前での予約は入っていなかった。

MIKI以外の名前は知らないので、フロントでもたずねようがなかった。

だいいち、品川にホテルはたくさんあるので、このホテルに泊まっているかも定かではなかった。

ロビーのソファーに座ってさらに30分ほど待ったが、MIKIは現れず、携帯も鳴らなかった。

家に帰ると真っ先に犯罪ネットをチェックしたが、交通事故や犯罪に若い女性が巻き込まれたようなニュースはなかった。

翌朝もMIKIから連絡はなかった。

それどころか、携帯の電源も切れていてつながらない。


・・・それで、駅向こうの所轄署に泉田刑事をたずねた。

刑事は出かけていたが、相談室で待たせてもらうことにした。

1時間ほど待つと、さわやかな顏をした泉田刑事が相談室に顔を見せた。

「お父さん喜んでいたね」

と、泉田が挨拶代わりに言うのを聞いて、犯人の手がかりを見つけたのはじぶんだと、刑事が浪人生の父親に言ってくれたと分かった。

社長秘書の内海嬢は、まだ重要参考人で聴取しているが、本人が黙秘していているので逮捕はまだ先のようだ。

MIKIから被害届は出ているかをたずねると、泉田はうなずいた。

そのMIKIと昨夜会う約束をしたが、連絡が途絶えたと言うと、刑事は席を外して、品川のホテルをあちこち当たってくれた。

だが、MIKIは品川あたりのホテルには泊まっていないようだった。

「MIKIさんは、辻本さんの件では罪に問われないのですか?」

そう小声でたずねると、扉のない相談室の外を気にしながら、

「窒息死の原因は分かりますよね?」

と、泉田も小声で言った。

うなずくと、

「焼死というのは、肺に煙か火が入って死ぬ状態を言います。辻本さんの肺には煙も火も入っていず、どうも19時から20時の間に窒息死したようです。火が出たのは、21時半ぐらいです。この意味は分かりますよね?」

泉田は、ひそひそとささやくように言った。

再びうなずいて、

「つまり、MIKIさんは、18時過ぎから22時近くまで、蒲田のビジネスホテルにいたのは確かなので、辻本さんの窒息死とか焼死とかにはまったく関与していないということですか?」

とたずねた。

だが、顔を強張らせた泉田は否とも応とも答えなかった。

・・・しかし、これだと、19時から20時ぐらいの間、辻本の家にいた木下社長の立場は微妙だった。

木下社長のことをたずねても、管轄外の事件という口実で、泉田はよしんば知っていたとしても、何も教えてはくれないだろう。


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