売られた花嫁(その7)


「可不可を借りてどうされます?」

早く話を切り上げて、すぐにでも帰ってもらったほうが可不可の機嫌がいいだろうと思って、そう切り出すと、

「ああ、そのことね」

MIKIは、天井に向かってメンソール臭い煙を吐き出し、

「結婚するのよ、私」

とぽつりと言った。

「ああ、それは、おめでとうございます」

型どおりのあいさつをそっけなく口にすると、

「それがとんだ災難でさあ・・・」

おめでたい話なのに、眉をひそめたMIKIは、溜息をついた。

深酒をするのは、その辺が原因かとおおよその想像はついたが・・・。

「ライバルが多くって」

「ライバルといいますと?」

「あらっ、ライバルはライバルよ。・・・パパと結婚したい女がたくさんいるのね」

「はあ?」

「だいいいち、パパには奥さんがいるし」

「この国の法律では、奥さんがいるひとと結婚はできないことになっています」

「馬鹿ねえ、そんなこと子供だって知ってるわよ。結婚できないのに、ライバルたちが結婚話を聞きつけていろいろ邪魔をしてくる。・・・私、殺されるかもしれない」

「身辺警護に可不可を使うおつもりですか?」

横を見ると、しきりに首を振る可不可が目に入った。

「・・・警察に相談されてはどうです?」

すかさず切り替えると、

「奥さんがいるひとと結婚するのに、警察に相談できる?」

MIKIは酔ってはいるが、悪いことをしようとしている自覚はあるようだった。

「事情はどうあれ、人命を守るのが警察の仕事です」

わかりきったことを言うと、

「探偵事務所だって、それが仕事でしょ」

と話をこちらに振り向けた。

「ええ、ことと次第によっては・・・」

お金次第だということを匂わせると、

「もちろんお金がかかることは知ってるわ」

と、こちらのペースに乗ってきたが、可不可は今度はもっと激しく首を振った。

「パパが払ってくれると思う。・・・ああ、結婚相手かな」

「パパさんが結婚相手ではなかったのですか?」

「あらっ、パパと結婚するのよ」

MIKIは、平気でつじつまの合わない話をする。

酔って呂律も回らない女の依頼など、まともに聞く気にならなかった。

「さっき、パパさんには奥さんがいるので結婚できないとおっしゃっていましたよね」

と嫌味を言ってやった。

「そうよ。だから、いったんパパのお友達と結婚して、パパが離婚するのを待つの」

これにはちょっと呆れて、

「ああ、それって偽装結婚です」

と思わず言ってしまった。

「それそれ、・・・偽装結婚よ。偽装でも何でも結婚すれば、ライバルは諦める。偽装結婚するまでの間だけでいいから身辺警護してほしいのよ」

酔ったMIKIは、悪びれるでもなく、とりとめのない話を続けた。

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