62-ウィルって誰だ?



「ウィル……? って誰だ」


「さぁ……」


「頭目、ウィルって知ってます……頭目?」


 仲間たちは固まった妖精弓士を覗き込み、顔の前で手を振ってみた。


「……」


 ゆっくりと見上げられていた視線が降りてきて、それと同時に手を顎にやって、足元の虚空を見つめる。


「………………」


 徐々に頭が働いてくるのが分かる。


 彼は、誰だろう、と頭が理解をし始める。


 一つ一つ、綺麗に整理整頓していく脳内を褒める間もなく、彼女の脳内は彼が何者かを暴いていく。


「あ」


 彼は妹、と言った。

 オーレという護衛対象を妹と言っていた。


 その妹は何故か突然「大事な人が大変」だとかなんとか言って護衛の任務を中断した。せっかくの組合長統括から頂いていた依頼を破棄してまで、だ。


 そこまでする大事な人は誰なんだろう──と、思っていた。エレという大犯罪者の名前を出してから雰囲気が一気に変わったことも不可解だった。


 そして、団長と親しそうな話もしていた。


「も、もしかして……」


 繋がった。

 完全に繋がった。

 彼は、先程の人物は──


「あーーー!?」


「頭目!? ど、どうしたんですか!?」


「あの人をっ、彼を追って!!」


「え、でも──」


「いいから早く! この子らは私とコイツで見とくから、アンタらは早くあの人を追って!!」


 興奮する声を抑えきれず、妖精弓士は仲間たちに指示を飛ばした。困惑する仲間たちに、先程の人物の名前を上げた。


「ディエス・エレがこの街に入ってきてる! 団長にも伝えるんだ! はやく!」


「ハッ!?」


「行け! 追いかけろ!」


 ウィルという名は、森閑砦の団長の複数ある内の一つのミドルネームだ。


 ──ディオラ・ウィル・オルター。


 彼は稀代の弓使いとして大陸中に名を轟かしている。多くの人物は『ディオラ』と言う名前しか知らず、団員の中でもフルネームを知ってる者なぞ彼女くらいしかいない。


 そんな彼のことをミドルネームで呼ぶなんて……。


 いや、そんなことよりも、これは、一大事だ。


「今度は何を狙ってるんだ……ディエス・エレ。灼火の堅閻よりも先に彼を見つけろ。必ずだ……!!」


「頭目!」


「なんだ!? まだ何か」


「魔石、どうします!?」


「回収しておけ、馬鹿者!」


「頭目っ!」


「なんだ!?」


「子どもらに傷がありません!」


「それは良かったな!!」


「それで……」


「なんだ!? まとめて話せ!」


「少年がこの瓶を持っていました。見る所……上級水薬かと」


「はっ──」妖精弓士は水薬の瓶とシエトを見て「なんっ、オマエ、盗みを!?」


「それはあのにーちゃんがくれたヤツ。苦かったけど、体がめちゃめちゃ軽くなったんだ。すごいのか?」


「すごいもなにもこれだけで食費何ヶ月分の……あああぁあっ!! いいから、お前らは、はやく探しにいけ!! もうないな!? ないだろう!?」


 大人たちがひとしきり盛り上がったのを横目に、子どもらは後ろでコソコソと話をしていた。


「あのにーちゃん、ディエス・エレって言うのか。なんか強いっぽいぞ」


「絶対見つけて、仲間にした方がいい。だろう、リーダー」


「うん、僕もそう思う。あんないい人に会ったことない……」


 三人の視線と意見を受け、頭目は頷く。


「決まりだ。オレらの最後の仲間はディエス・エレにする。いいか、お前ら。絶対、他の奴らに取られないようにするんだぞ」


 少年少女は妖精弓士に聞こえぬように話し合い、意志を固めた。

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