71-こんな場所でなにを……


「おい! そこの三人! 今日はこの場所は関係者以外立ち入りを禁じている」


 声をかけられた方を見てみると、冒険者が何人かいた。

 その中には食事処で絡んできていた一党も見える。かぶりを深くしておこうか。


「関係者だよ。ほら、招待状」


「確認します」


 仮面は駆け寄ってきた冒険者の頭目に招待状を渡し、偽装ではないかと確認が終えると、次は後ろにたっていたオレと女性に目が向けられる。


「後ろの方々は?」


「この子達は私の付き人。二人までならいいんだろう?」


「……大変失礼いたしました。お入りください」


 目配せを受け、天至一塔へと入っていった。


(ここに何しに来たんだ? それに警備までいるが……)


 オレ自身、この街が生まれ故郷ではあるが天至一塔アルキュラスに訪れたことはそこまで多くない。

 認識が間違ってなければただただ高い塔だったハズだ。一階部分は広間になって、たしかにキレイではあるが、言ってしまえばそれまでのところ。


「──だから、言うとる! ええか、もう一回言うで!」


 快活な女性の声が強引に耳に入ってきた。


「外観は至って複雑! 城壁が斜面みたいになって重なっとるような箇所があったろ? あそこは──」


「あぁ。そこは聞いた」


「ここを聞いたならどこや……?」


「……? なんだろ、あれ」


「さあ」


 声の発信源である女性は、棒付き飴を口に咥え、桃色の髪を同色の帽子で覆っている。小柄で肩が出た格好をしてるのは見ているだけでも寒そうだ。


 そんな女性の隣にはこの場にいる誰よりも大きい白髪で褐色肌で眼帯をつけている男性が立っている。静かな怒り。そう感じられるほど、男は自然体であっても力強さと暴力を連想する見た目をしている。


「じゃあ、神に人が至ろうとするとはなんたるか! 神の怒りを恐れぬ愚かな者達よ! ってのは?」


「聞いた」


「下から上にかけて細くなっていく建物の構造と家屋みたいなのが見えるって話は!?」


「聞いた」


「なら何処を聞いとらんかったんや!?」


「その先だ」


「どの先やねん!? この先はないっ!」


 女性のジトとした目を男性は受け、二人は視界に収まらない塔を見上げた。


「あの話は教典からの引用だな」


「知り合いかい?」


「知らん。が、神殿関係だろう」


 教典を知っているということはつまりはそうだ。


「──ってこと! ちょっとは興味持ったか?」


「あぁ」


「何事も興味を持つところから始まる。うんうん。ブロ爺もこの塔のことは覚えとかねーと怒られっぞ〜?」


「説明感謝する。やはり博識だな」


「戦士のアンタらが腕振っとる間に、こっちは脳みそのシワ増やしとる。ンデ娼婦は腰を振っとるってな。ま、得意分野はそれぞれって話な。分からんことは多いが。へっへっへ」


 女性は帽子を持ち上げ、喋るために手に持っていた棒付き飴を咥え直した。


「って、そこにおるんは招待客か? お〜い」


 彼女がこちらに向かって手を振ってきた。


「招待客さ。聞いていたよ。わかりやすい説明ご苦労様」


「あー、どうもどうも。いうて教典の右上から左下の文字の話ですんで、そんなそんな」


 ペコペコと頭を軽く下げる女性と、立ってこちらを物差しにあてがうような目で見てくる男。


「どこから来たんですか? 訛りがあるみたいですが」


「ん、アチシ? 出身は海の外さ。で住んでるのはここより少し北東に行ったところにある街。代表じゃあないよ。代表代理だかんね? ねぇ?」


「ああ」褐色で白髪の男性は頷く。


「このジーさんもその口。昔は海の外でブイブイ言わせとったってさ。そちらは? 見るところ、謎多きって感じだけど?」


「私はここよりもっと東の土地さ。ここまで西に来るのは久しぶりで、昨日は……一昨日か! 一昨日は神殿を探索してね」


 やいやいと話す中、ブロ爺と呼ばれていた白髪男はオレのことを上から見下ろしていた。


「……」


「……」


「なあに、初対面の方を威圧してんのさ。ブロ爺」


「……知り合いと似たニオイがした。直感はよく当たる。キサマ、顔を見せてみろ」


「初対面相手にキサマとは躾がなってないな?」


「争うつもりは無い。アイツがこの場所にいる訳はないが……ニオイが同じだけで、貴様からは強者の気配はしないからな」


「気配すら抑えれない老骨に言われる筋合いはねぇさ。出すもんダダ漏れで恥ずかしいな。しっかりと繈を履く心構えはしておけよ? 最初は抵抗感が凄いらしい」


「ええっちゅー! ヤメヤメ!」


 割り込まれながらも、男はこちらから目を離さなかった。

 睨むわけでもなく、気味が悪いほどに、目を向け続けている。 

 背丈は……剣聖モードレッドと同じくらい。ガタイもそうか。年齢は若干コイツが上……古強者、といったところだな。


「招待客さんなんやから! 喧嘩でもしてみい! どえらい事になる! 都市同士で戦争でもするつもりか! 考えぃ! アンタも!」


 ここで反論をするのは少しばかり幼稚か。

 ブロ爺と呼ばれた者から視線を切る。帽子の女性はため息をついた。


「はあ〜。元気が有り余っとるんはええことじゃ。うんうん。そういうことにしとこ。ってええことかい!? ガキじゃああるまいし!」


「それじゃあ入ろうか。先に着いておいてもいいだろう」


「はぁ、そー、やな。ま、そーか。ほれ、ブロ爺――って、まだ睨んどんかジーさん!? えーから、行くぞって、ほら! ここに呼ばれたんは会議に参加する重役ばっかぞ! もう片方の目も眼帯さすぞ!? もっと、こう……こ〜う、優しい目をしぃや」


「善処する」


「って……会議? おい、お前……」


「あれ、今気づいた? おそ〜い。鈍感は嫌われるぞ?」


 仮面は天至一塔の中を指す。


「私らは今日から七日間。彼らに警備をされる側になるんでーす」

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