72-雲抜ける会議場


 どこで何をするのかわからないまま、塔の一階の案内人に話を通すと、設置されている転送装置にまで案内をされた。

 

 魔導学院と商業組合が共同制作した魔法科技術の結晶に乗り、五人は天至一塔の中層にまで一瞬で移動。


 下からでは複雑怪奇な塔。どこに飛ばされたかと思うと──


 そこには大地があった。


 草木が生えていた。


 緑があった。


「カネさえあれば文明は進むもんだね。ちょっと前からじゃあ考えられないよ」


「おおお……実際に見るとキレイやなぁ。なぁ、ブロ爺」


「あぁ」


「一階も中々キレイだったけどな、ブロ爺」


「あぁ」


 風だけが地上のものよりも冷たく、少しだけ強く。


 雲が地面を這って移動していった。


 オレ達の足元は先程までの土や石が混ざった地面ではなく、石が組み合わされて造られた土台が見える。


 あぁ、噂には聞いていたが……。


 《天至一塔アルキュラス》を何かに利用しようと話し始めたのは、ここ数年の話。


 天高いだけで、行き来できるのが一階部分だけというのはなんとも物寂しい。として、人類の叡智である《転移装置》を組み込み、上下に自由に行き来ができるようにしたのだ。


「…………」


 オレたちが魔王を倒しに行っている間に、こうも変わるんだな。


「なんか嬉しそうやな、付き人さん」


「あぁ。文明が開花するのも……平和だからこそだ」


「? 不思議なヒトやな。ま、そうな。平和。素晴らしい響き。まぁ、魔王を勇者が仕留めれんかったから、期限付きやけどな」


「そうそう”勇者”がね」


 仮面がへらへらと笑うから、土台から草が生い茂る地面へと足を下ろした。


 雲が横から貫くが、すぐに突き抜け、他の雲の元へと向かっていった。


 大きな雲に隠れていたのか、土台の向こう側には大自然に囲まれてぽつりと一つ、人工的な円卓があった。


 そこに座っているのは、四人。席の後ろには二人ずつ並んでいる。後ろは護衛なのだろう。


「お〜、集まっとる集まっとる。としても四人かあ……アチシら以外にもやってくるんかいな」


「実はわたしらは遅刻してるんだよ」


「お。じゃあアチシらが最後か。ンでも席余っとるなぁー……」


 ぶわ、と大きな雲が貫いていくと、次に視界が開けた時には円卓から走ってきている少女の姿が見えた。


「おお〜い! 久しぶりーー!! メルゴール〜!」


「おあ〜! ちすちす〜! チビちゃんも元気いっぱい〜!」


 とても嬉しそうに手を振っているのは茶髪の小人ハーフリングの少女だ。帽子の女性に持ち上げられ、クルクルと回っている。


「……博識で聡明。髪が長くて、艷やかで、気品溢れる。だったか」


 食事処で話をしていた給仕係の女性を思い出す。


「知ってる人なの?」


「マリアベル。商業組合の長だ。外に顔はあまり出さないんだが」


「へえ……お気に入りか?」


「悪いヤツじゃない」


 彼女ほど元気な人物もそう居ない。昼間に木陰でサンドウィッチを食べてそうな少女。それが現在の商業組合長の正体なのだ。


 マリアベルが帽子の女性メルゴールを円卓まで引っ張っていき、それについて行く。


「今日は我々円卓の招待に応じて下さってありがとう! といっても、本来ならここに森閑砦の団長が加わるんだけどね……」


(アイツ、いないのか。返事が返ってこないから忙しいみたいだな)


「お、欠席か? サボりか?」


「そんなとこ。あと、時間に無頓着なの。でも! 彼の意見は事前に聞いてるから問題なし!」

 

 そのまま座るように促された。招待客は席に座り、付き人は席の後。

 仮面の後に立ち、円卓を囲う他の者達の顔ぶれを見やる。正直、驚いた。


(警備の理由はこれか)


 六卿帝ディアマリアが二人。商業組合長。魔導学院の名誉学長。円卓の席数を見るに、もっと多くの人間が呼ばれているのだろう。

 こんな人間たちを集めて何の話をするんだか。


「──遅刻だぞ」 


 腕を組んでいた者からのドスの利いた声が放たれた。反省をしている者はいない。


「いやぁ、寒い日の朝は厳しいよぉ。女の子は体が冷えると大変なんよ。おっちゃん」


「朝から部屋を《ことば》で温めたりしてね」


「そお〜〜ほんまにそれ」


 それは寒そうな格好をしているから……は、野暮か。


「招待したのはオレらだがよぉ。ちと自由すぎないか?」


「まぁまぁ。今日の主役達は無事に揃ったんだ。話をしようじゃないか!」


「全員は揃ってはない。六卿帝と他の……」


「誰が揃っていないかよりも、この場にいる人達で出来る話を進めていこう!」


 マリアベルの舵取りによって、会議の一日目が始まった。

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