69-金等級になれた”ワケ”
前例のない昇級速度で金等級になったアレッタ。
それは実力だけでなく、人間性も冒険者組合から認められたということだ。
そんな華々しい実績の経緯を冒険者組合に問い合わせたところ――ヴァンドがお節介を焼いていたことが分かった。
「正直、俺はアレッタの実力を信じていない」
卓に座り、生真面目そうな顔でそう言い切った。
「あのぉ……それは、どういう」
「アレッタは金等級の冒険者で、
四人から目を向けられ、アレッタが胸元から金等級の認識票をあせあせと取り出して見せた。
確かにそれは鈍く黄金色に光っている認識票だ。
四人がそれを目視したことを確認して「だが」と口にして。
「銅等級から二日で昇格したという、異例の経歴を持っている」
その言葉には三者三様――四人いるから、四者四様か――の反応を示した。
女戦士は「はぁ!?」と疑問を持つようにアレッタを眺め。
女騎士は「ほぉ」と見立てがあると顎に手をやって。
女魔法使いは「はぁーん」と納得して椅子にもたれかかり。
女斥候は「んふっ」と思わず笑みをこぼしてしまった。
「……つまりはその子が私達のクランの依頼を使って、ズルをした子ってことでいい?」
「ああ。その認識でとりあえずは間違いない」
「ってことは――」
「実力を確かめてほしいっちゅー話かな、エレさん」
言いかけた女魔法使いの発言を遮るように、女斥候がアレッタを嫌そうに見つめる。
「話が早くて助かる」
「つまりは、どういうことだ」
コクリと頷いたオレに遅れて、女戦士と女騎士が口を揃えて疑問を呈した。
「少し前に、私達が所属してるクランから金等級向けの依頼が無くなってたでしょ?」
確か、海蜥蜴ノ街付近の依頼だったかな。確認するようにこちらに目線を送ってきたのでまた頷いた。
そこから女魔法使いの説明が始まった。簡潔にまとめるとこの通り。
・クランメンバーが依頼を達成しようと
・だが、途中で依頼がなくなったと連絡が来た。
・その付近にいるのはヴァンド(団長)だけ。
・だが、ヴァンドが勝手に依頼をするわけがない。
・だから、第三者。ヴァンドと親しい者で、金等級付近の冒険者が依頼をした。
ここまで女魔法使いは分析していたらしい。なかなか鋭い。
だが、説明が丁寧すぎるあまり、女騎士と女戦士の頭からは煙が立ち上がっており、こめかみに手を当てて揉んでいた。
「あーー」と女魔法使いは立てていた人さし指を折り曲げた。
理論立てて説明しようとするのは魔法使いの癖だ。
「アレッタは君たちが所属をしているクランの依頼を貰って、金等級の実力を誇示した」
わかりやすくいうとね、と説明。それならわかるぞ、と女戦士と女騎士は生気を取り戻した。
「だから、アレッタの実力を見てほしいんだ」
「あ、っと。エレ殿。その、アレッタという少女が依頼を横取りしたまでは分かった。分かったのだが……それがどうして、私どもの一党で実力を見てほしいということになるのだ」
「そのことだったら……。ほら、これ」
訝しげに上目遣いをしていた女騎士の前にペラと懐から出した紙は――
『冒険者:アレッタを、
ヴァンドが建てたクランが発行しているクランメンバーの証明書だった。
それは女魔法使いも初めて見るらしく、紙を奪い取り、アレッタの顔と交互に見やった。
そして、蟀谷を抑え付け、これから話されるであろう内容を悟り、崩れるようにと椅子に落ちて行った。
「冒険者組合が横流しに気が付かない訳がない。だから、調べてみたら案の定、アレッタは君らの後輩だった。ということはヴァンドが「こいつをクランに入れたいんだ、信用調査はそこからしっかりとしてくれても構わないから」とかどうとか言って
金等級の依頼を達成したかは分からないが、流れはおそらくはあっている。
「どの道、本来通るべき道を通らずに横道を通ったことに変わりない。そういう訳で、君たち先輩にこの子が本当に金等級の実力があるのかというのを調査してほしい。本来なら俺が一緒に連れて行くべきなのだろうけど、俺としても色々と面倒ごとを抱えているからずっと目をかけれなくてね。どうだろう、
深刻そうな顔で、指を組むオレの顔をつまらなさそうに見つめるのは女魔法使いだ。
──この男は、全てを理解した上で話を進めている。
そう感じているのは全員であったようで、口々にため息と一緒に言葉を発した。
「やっぱり、兄貴は変わらんな」
「だな。エレ殿らしい」
「変な依頼をすると思ったら」
「ほんま、いい性格してるわあ」
誉め言葉ではなく完全なる皮肉。申し訳なさそうに、ニコ、と笑った。
(はぁ、全く……この人は、昔から変わらない)
無理に依頼を受ける必要はないのだが、エレからの頼み――自分たちが所属をしているクランを建てた団長の親友からの頼みだ。
彼女たちは断れるような立場ではない。
それに、もし、アレッタが実力不足だったらクランの信用が落ちるかもしれない。
そこまで把握をしているというのに【お願い】という形をとっている。
命令でもすればいいのだ。
――「こいつの実力を調べろ」
――「そうしなければ、クランに悪影響が出るぞ」と。
それをできる実力や権限を持っているというのに、しない。
あくまでも自分たちに判断を任せるようにして「気が付かず、判断を誤れば痛い目を見るのはあなた方ですよ」という体で。
(まったく、腹黒なのはご健在なようで)
女魔法使いは頬杖を突き、飲み物を注文し始めたエレを眺める。
(いやいや、これでエレさんを問い詰めるのは違う。……あの団長、帰ってきたら一発じゃ済ませない)
他のクランメンバーに任せてもいいが、金等級の実力を図れる立場であり、神官に関してもそれなりに精通をしている『聖職者』がいる一党というのはそう多くない。
女魔法使いは、何も分かってなさそうな女騎士を見つめた。
そう、この女騎士こそ、その神官の実力を唯一正確に推し量れる『聖職者』──【
「はぁ……」
女魔法使いの心労を他所に、エレが注文した飲み物が届く。アレッタ以外、エールという麻痺毒ときた。
「あれ、エレさんってエール飲めるんですっけ?」
「いや、だが、今日ばかりは付き合おう。……オレも色々あって疲れたんでな」
今日だけで冒険者との戦闘、迷宮、亜人、オーレの仲間、神殿案内──とあり得ないくらい詰め込まれている。
ヴァンドの言っていた「酒を入れずに働ける奴ぁ、頭のネジがハズレてる」という言葉に今は同意する。今日ばかりはエレも疲れたのだ。
「さぁ──新生、
エレが掲げたジョッキに女騎士と女戦士は喜々として合わす。遅れて女斥候が手を伸ばす。
女魔法使いとアレッタはお互いに目を合し、大きなため息を着き、ジョッキを合わした。
「エレ、ワタシ、やるって言ってないのに」
「自分の失敗は、自分で片付けるもんだ」
ムスッとするアレッタの抵抗虚しく、
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