66-二つの仕事がある



「そういえば。他の人に目星は付けてるの?」


「なんだ。急に。あれだけ怒られたのに、まだ元気か」


 礼拝堂を後にしたオレとオーレは神殿の浅い階段の横で話をしていた。

 オーレのでかい声で、恰幅の良い神官から睨みあげられ「出ていけ」と怒られた。アレッタはひどく集中しているようで話を聞いてなかったようだが。

 仲間、か。


「魔法使いは……まぁ……」


 チラと目を向けると、だらしなく口を開けるオーレ。それはボクがもらっています、と誇らしげだ。


「神官。前衛。盾。この三人だな。前衛と……実は弓使いにも手紙を送ってた。返事は帰ってきてないが」


 雪がぽつぽつと降る中、黒鳥が直角に降りてきて隣の床に突き刺さった。


「わ」


「返事が来たか。ご苦労サマ」


「え”っ。これが普通なの?」


「コイツはこういう生き物だ。東の方でオレを襲ってきたから殴って教え込んだ」


 突き刺さった大柄な黒鳥を引き抜き、背中に背中に結んでる小鞄を開いた。中に入っていたのは手紙と新聞。


「新聞は……あぁ、もうそんな時期か『最強の座』を決める投票が始まるんだとよ。興味はないな。……あとは、おぉ」


 関心を寄せるとオーレも新聞を覗き込んだ。


「新たな蒼銀等級が決まった! おぉ!」


「といっても、まだ名前は出さないか。どうせ、オレん時みたいに大きな催しをしてからだろうな」


 オレとヴァンドが同時期に蒼銀等級に選出された時は、王都で大掛かりな授与式が行われた。王都にもう一度、行く訳にはいかないからまた新聞で確認をしてみよう。


 そして、手紙を開き、目を走らせると、黒鳥の口の中に手紙と新聞を放り込んだ。


「うぇっ……え、食べる……えっ。あ、なんて書いてあったの? 誰から?」


「さっきの。前衛に引き抜こうとしてた奴」


「なんて?」


「振られた」


「えっ」


「……『鼻タレ小僧が大犯罪者になったせいで礼儀も忘れたか。直接会いに来い。稽古を付けてやる』ってさ。クソジジイが」


「……くそじじい…………?」


「知り合いだ。この調子なら仲間にはなってくれなさそうだな、アイツ。まぁ、この大陸に戦士ほど有り余ってるモンはいない」


「強引に誘ったら来てくれるんじゃない? 女は案外チョロい所があるのだ」


「男だぞ」


「男はもっとチョロい」

 

 残っていたパンを口に放り込んだ。オーレはたまに不思議なことを言う。


「あ、そういえば話し変わるけど良い? お仕事もらったんだ。二つ。気になる?」


「仕事ぉ? なんの」

 

「警備がまずひとつ目で」


 面倒くさそうだな。


「ちなみに、なんの警備だ?」


「近々、この街でこの大陸の有名人ばかり集めて大きな会議をするんだってさ。治安維持じゃない? 詳しくは知らぬ」


「あー……」森閑砦ミュルクウィズの妖精弓士の話を思い出す。「なるほど」


「お兄ちゃんもどう? 警備のお仕事。給金いいよ〜? 明後日。昼。どお?」


「考えとくよ」


「お兄ちゃんの考えておくは、やらないと一緒って知ってんだ。一応は、ママからの依頼だからね? ママ、悲しむだろうなぁ〜」


「親離れは済んだぞ」


「子離れが済んでないんだよ」


「それであと一つが案内なんだけど……そろそろかな?」


「案内?」


「──あれ、ここで合ってるかな」


「?」


 階段の下で神殿を見上げる人影が一つ。


「あのぉ〜、すみません〜? ここって神殿であってますか?」


「……あぁ」


「よしっ。じゃあ、入ろ」


 どうやら、神殿に用事がある者らしい。

 しばらくして、再び恰幅の良い神官の声が聞こえてきた。何やら揉めているらしい。


 そうしていると神殿から出てきた人影はわざとらしく肩を落とした。


「あ〜あ! せっかく見に来たんだけどなぁ。そう頻繁に来れる場所じゃあないし……お金ないし。案内できる神官さんがいないって言われちゃったぁ。一人で回るのもなぁ。ねー、ほんとに案内してくれないの〜?」


「…………オーレ。もしかして、案内って」


「そう。神官がいないから──おーい! 仮面の人〜」

 

「む?」


「神殿に手紙送ってきてくれてた人ですか?」


「オォ! そうです! よかったぁ。ダメかとおもった……」


 駆け寄ってくるのは、白を基調とした上着とスカートが一体になっている衣装に身を包み、深履を履いている女性と思わしき人物。

 顔や頭髪はかぶりに加えて仮面をつけているので不明。

 ……なんだかきな臭い。このご時世で顔を隠しているなど──自分が言えた口ではないが──怪しい。


「……あぁ、じゃあ。オレは」


 どこか行こうとした所、オーレと仮面の人物に手を握られた。


「ダメだよおにーちゃん!」


「一緒に見て回りましょうよ! 一人よりも二人、二人よりも三人です! ねっ! いいでしょ! いいよね! やった〜!」


「…………」


 オーレの目は如実に「一人だけ逃げるなんて許さない」と語っている。彼女が受けてきた仕事をオレまでする筋合いは無いんだが──

 そうこうしている内に、二人に手を引っ張られていた。


「れっつ、神殿観光だ〜!」


(なんでオレまで……)


 

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