2-3大陸会議
74-大陸会議1日目
話し合いは順調に進んでいた。
各主要都市の代表並びに、多方面の権力者で開かれた──その割には全く出席者が少ないが──此度の
不参加の者であっても意見は手紙で受け取っているようで、円卓の者達が器用に進めていっていた。議題は世界の情勢、均衡、東の街の防衛力、経済。抱える問題は多い。
そこに加わったのが、勇者の一時不在で巻き起こった『
「今のままじゃあダメだ。治安維持、街の警備、冒険者は憲兵じゃあねぇんだぞ。王都のほうに人員を割きすぎなんだよ」
凄まじい剣幕でそう言い放つのは、六卿帝の三等星に座す灼火の堅閻の団長――ドダン。
真っ赤な髪に、鈍く光る深紅の鎧。それは最高級硬度を誇る、アダマンタイトの鎧だ。
守備を削り攻撃に特化した鎧はまさに、獅子がそこにいると感じさせるほどの圧がある。
「その話には同意をする。王都は過剰警備だな」
「おーお、魔法使いでも話のわかるやつはいるなァ」
「喧しい。西に魔族の出現の話は今まで聞いたことがない。大陸唯一の王とはいえ、勇者がその存在意義を示さなければこの体制をいつまでも続ける訳もない。王都側はこの会議に不参加なのも腹が立つ」
ドダンの意見に同意するのは、青髪が腰辺りまで伸びている魔法使い。六卿帝の三等星──広海大賢の団長トトリ。
現、《水の塔》の管理者でもある彼は荒だつことのない紺色の瞳をしている。少し尖った耳は母親の遺伝子を受け継ぎ、魔法の才は父親の影響も大きい。
「参加しないではなく、出来なかったんじゃよ。王都は今、勇者のことで多忙じゃ。毎日のように出てくる新聞がそれの証明じゃろうて。ほっほっほ」
「勇者が潰えれば、この継ぎ接ぎだらけの一国制も崩れる。勇者を抱え込むのは当然だ。が、代理のものを出席させることも可能だったはずだ」
「出席をせずとも意向は発信しとるじゃろう。勇者頼みじゃとな。大事に大事に抱え込んどるわ」
「勇者という手札を持ってるから、とやかく言われる筋合いはねぇってことか。狂ってんなァ」
「じゃろう。それと、命は惜しいからのぉ。王都内での支持は厚いが、東に行けば国王の名すら知らん者もおる。この
「おーさまは東の人らになんもしてくれないもんねぇ」
「東の街は今、十年ぶりに魔族の驚異に晒されとる。魔族が攻撃的になっとるから襲撃報告が後を絶えん。不触神は気味が悪いくらいに動かんがの。ま、実利がなければ王じゃ神じゃというのは、ただの呼称に過ぎん」
「えらく踏ん反り返ってる知らない人よりも、今晩の温かいごはんを作ってくれる母親、カネを稼いできてくれる父親さ」
「今日のマリアベル嬢の言葉は冴え冴えとしとるの」
「たまに言うコト言うわよ、えっへん!」
陽気に笑う好々爺はこの円卓での最年長の魔法使いであり、魔導学院の名誉学長ターフェル。トトリの実父であり、麗水の海港の円卓の一席を務めている。
その横でニコニコと笑ってるのはマリアベル。商業組合長だ。
「ターフェル……さん、だっけ? 先の一件っつーのは、なんなん?」
「フェルで良いぞ。青空魔導士殿。勇者一党から追放された前衛に、国王並びに勇者が襲撃されたという話だ」
「そんなもん報道したんか!? へっへっへ……え、マジ? 王サマやるなぁ〜。自分のこと可愛いと思っとるんかいな」
「聖都には新聞は行き届いておらんのかの?」
「あんな貴族の自慢話ばっかりの資源の無駄遣いを見る間には、お昼寝しとるって。そんだけ憲兵に囲まれ、勇者も滞在してるのに襲撃されとるんは、負けましたーって公表しとるようなもんじゃろうに」
「阿呆な国民を騙すのには丁度いい。その只人の残虐性や異常性にしか目がいかないからな」
「ほえ。みんな何も考えんのんやね」
果実をつまみ、口に放ったメルゴール。
「先の一件、だってさ」
(こっちを見上げてくるな阿呆)
仮面の背中を小突いておいた。
それからも話し合いは続いていった。
仮面の人間はそこまで参加せず、ふああ、とあくびすら浮かべていた。
一日目だ。出席人数も少ない。早く終わりそうだな。
オレも酒精を体に入れたせいで若干眠いし、体がダルイ。あと太陽に近いから絶妙に暖かいのだ。うたた寝をし始めてもいいだろうか。
護衛といっても、こんな場所に剣を振りかざす人間なんていないだろうし。
「…………以上で、話そうとしていた内容は終わり、かな?」
マリアベルが円卓の上で紙束をペラペラと捲り、んむ、と唸る。そこにメルゴールが声をかけた。
「あ、チビちゃんさ。そういえば、なんでこの場所でするようにしたの? 資料が飛んじゃわない?」
「みんなお金持ちだからに決まってるじゃない」
キッパリと言い放ち、メルゴールから「oh……」と微妙な反応を受けとる。
「これだけの大御所が一箇所に集まるんだ。……お金、しっかり落としていってね?」
「この商売人が」頬杖をついて、へっへと笑った。「やっぱりその口か」
「当たり前じゃない! ね、フェル爺!」
「じゃーじゃ。こんな紙が飛ぶ場所で会議なんて誰が好き好んでするか!! のぉ!」
「親父、そんな目で見つめてくれるな。私はこの街の円卓の一員ではないぞ」
「わしの子が円卓の一員ではないと!? ほっほっほ! それはおかしい! 今すぐ名簿を出すんじゃ。ほれ、名前を書くだけで終わりじゃぞ。ほれ、この塔の研究をするならこの街に住まうのが利口じゃろうが!」
「この街にはクランが多すぎる」
「なら、聖都にきなよ。魔法使いでしょ? 待遇いいぞ〜?」
「オレは神を信じてないんでな。胸と尻がデカイ神がいたら信仰してやる」
「分からず屋じゃのぉ。成長途中が一番そそるんじゃろうが……」
「へっへっへ、変態親子か! うひょぉ。珍しい。下半身に脳みそでもついとんかいな」
会議が終盤に差し掛かってきたのか、皆はティーカップと注がれた紅茶と珈琲を皆は嗜み、残り時間を過ごそうとしていた。
「……一つ」
その中に、一つの手が上がった。
「警備をしていた者から共有をしておきたい話があるんだが、いいか?」
「一昨日の話だ。オレのクランの人間がディエス・エレと遭遇した可能性がある」
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