49-集会場での誘い



「悪いな。ほかを当たってくれないか」


 見ずに誘いを蹴ると、近寄ってきた女魔法使いはムッと顔をしかめて耳打ちをしてきた。


「迷宮を攻略するんだ。近くの。あんたも分かるだろう? 飲み物一つに銀貨を投げるほど金払いがいいんだ。相当のちからも持ってると見た」


 目の前の洋卓を杖でコツンッと突き、ふんっ、と鼻を鳴らす。


「……」


 魔法使い。金等級。女性。……奥に三人。装備は悪くない。白金等級が二人。金等級が二人。中堅の冒険者で、中には森人の姿もある。


「補充したいのは戦士系か?」


「魔法使いか、遠距離支援ができる奴を探してる」


「迷宮に魔法使いを二枚? あんな狭い場所で遠距離を積んでどうする」


「それがウチラのやり方さ。攻撃が大好きでね」


 後の一党の仲間たちもニコニコしながら手を振ってきた。


「ならオレ以外に頼んだ方がいいな。遠距離での支援を頼られてもこまる」


 外套を少し持ち上げ、腰帯に刺さっている短剣と小道具袋を見せる。それだけでオレの職業が伝わる。

 

「おー、斥候かな。珍しい職業だ」


「まぁな。戦士だ、魔法使いだ、弓使いだってのはありきたり過ぎて面白くないんだ」


「へぇ。それで、不人気の職業に好んでなると」


「罠を解除して、宝箱を開け、水薬の管理。立派な雑用おしごとだろう? 斥候の良いところは宝箱の中身を一番乗りで見れるくらいだ」


「ハハハッ! 宝箱のある迷宮も近頃はない。身軽なことくらいかな?」


「小道具持ってんだ。身軽なわけないな。つまりは、なんのお得もない職業だ」


 カラカラと笑う魔法使いは、オレの肩に手を置いた。


「気に入ったよ、アンタ! 今回は縁がなかったが、次あった時はなにか一緒に冒険しよう。識別金板カードは持ってるかい? 交換しておこう」


「かーど……?」


 なんだそれは。

 あぁ、さっきの灼火の堅閻オーガストが持ってた奴か。


「ちなみに、それは、なんだ?」


「? 登録してる奴が信号を送ると、その方向を示してくれるんだ」


「……便利だな」


 だから団長が「路地裏に団員がいる」と言っていたのか。なるほど。

 戦ってる途中に誰かが押して場所をおしえたのか。便利だな。


「まさかアンタ。どこのクランにも属してないのか? その身なりで? 単独ソロとは珍しい」


「あぁ。興味が……縁がなくてな」


 流石に興味が無いは不自然か。それにしても、時代は進歩しているんだな。十年も離れてると、変化に付いていくでやっとだ。


 昔からクランっていうのはあったが、最近の冒険者は皆クランに入っているのか? 流行りなのか? 


「ならいい機会だ、ウチらのクランに入りなよ! 戦力拡大中に付き、クランメンバーからの推薦なら審査をパスして入れる」


「遠慮するよ」


「まー、そー言わずにさあ!」


「――はい。おにーさん、白湯だ」


 魔法使いとオレの間に体を挟み込んできたのは、注文を受けた少年だ。


「あと。ここがそういう場所なのは知ってるが、嫌がってる人に押し付けんのはどーかと思うぞ、オバサン」


「なにおぅ? この悪ガキ」


「出来たばっかのクランなんだから、そこまでチョーシ乗るな!」


 さすが集会場で働いてる子どもなだけある。ともあれ、これ以上目立つのも避けておきたい。


「黎明の神の道標がそうあれ、とするなら」


「?」「?」


「一党の話さ。次の縁に委ねるということで」


 言った言葉がすぐには分からなかったようだが、すぐにそれが黎明の神を信仰している信徒がよく言う「謎の言葉」だと分かると、ニマッと笑って手を握ってきた。


「約束だ!」


「頑張れよ。迷宮攻略」


「断られたのに嫌な気がしないね。声援ありがとう。名前を聞いておいても?」


「次に会うことがあれば教える。じゃあな」


 その冒険者一党が離れた時、集会場にいる者達の警戒心が薄れた気配がした。

 それでもオレに向けられる視線は半分半分と言ったところか。……まぁ、それは置いておいて。


「……で、お前はさっきからなにか言いたげだな?」


「なっ……んで分かった!? 心が読めるのか!」


 ずっとそわそわしてたら普通は気づく。


「小便でも行きたそうに体を揺らしてるからな。で、なんだ?」


 近くでこちらを見ていた給仕の少年は、お盆の後ろで何かの紙を握っていた。


「見込みのあるやつがいたら声をかけるようにしてんだ。……にーちゃん、これから暇か?」


「ある程度はな」頬杖を付き、悪ガキのように笑う。「要件を聞こう」


 周りを警戒するように見回す少年は、オレに手を出してきた。


「一緒に、迷宮に行こうぜ……!」


 原石中の原石に見込まれたらしい。

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