第16話 ミツキの能力

 ミツキがパーティの仮メンバーとなったことでお互いの情報のすり合わせが必要となった3人は、午前中いっぱいを使ってこれからの戦い方や方針などを話し合った。


 ミツキはユニスたちと同じ15歳。ハンターのレア職であるシーフで、レベルは13。索敵、罠発見、罠解除の能力を持ち、以前のパーティでは斥候として活躍してきた。

 これらの能力はユニスもプリシラも持っていないので、非常に歓迎すべきポイントだ。中級ダンジョンは罠も多く、ミツキの活躍が期待ができる。


 ユニスの特殊能力”箱”については、まだミツキには話せない。もしミツキが信用できると判断されて正式メンバーになれば教えることになるが、現時点ではそれを隠して活動していく予定だ。幸いというか、箱は直接戦闘に使用するものではないため、隠すこともさほど難しくはない。ちなみにプリシラの分与については冒険者には知られているので隠してはいない。


 そして午後からはいよいよ3人で中級ダンジョンに入る。

 今日の目的は、中級ダンジョンの魔物たちの強さを実際に体験してみることだ。さらにミツキが加わったため、ミツキの実力、および3人での連携確認も見ることも予定に加えている。




 中級ダンジョン、11階層に立った3人。ユニスとプリシラはきょろきょろとあたりを見回している。


「・・・森だな。」

「本当に森ですね。」


 11階層は初級ダンジョンまでの洞窟の景色とは違い、うっそうと木々が生い茂った森の様相だった。


「ここからしばらくの階層は森だぜ。」


 ミツキがそう言って笑う。彼女はすでに中級ダンジョンに何度が入って活動している。当然この11階層も見慣れた光景だった。


「調べてあらかじめ知ってはいたが、実際に見るとやはり不思議だな。」


 ユニスがそう感想を漏らす。

 なんで塔の中に森が、なんて今更誰も言わない。そんなの誰もわからないからだ。


「上層には草原の階層もあるって聞きますし・・・。信じられませんね。」


 プリシラはそう言って首を振った。


「ま、今から上層の話をしても仕方がない。今はこの階層でじっくり肩慣らしだ。」

「はい。」

「おう。」


 3人は元気な声で気合を入れ、3人は道の奥へと進んでいった。




「前方右30m先に魔物2体。近づいてくる。」

「種類はわかるか?」

「サイズが小さい。おそらくキルラビット。」

「了解。」


 そう答えてユニスがすっと前に出て構え、ミツキが下がりプリシラの前に陣取る。

 やがてガサガサと草をかき分ける音がして、キルラビットが姿を現した。


 キルラビットは、小さいながらもスピードと跳躍力に優れ、頭にある2本の角を武器に高速で突進してくる魔物だ。

 現れたキルラビットは、その2本の角を突きささんと猛然と突き進んでくる。が、ユニスは慌てず自然体でキルラビットを躱すと同時にその進行軌道に剣筋を合わせ、2回剣をひらめかせた。


「「ギギッ」」


 一瞬のうちにキルラビットは2体とも切り裂かれ、血を流しながら倒れて動かなくなり、やがて魔石を残して消えた。


「この階層の魔物は特に問題は無いな。」


 魔石を拾うユニスにプリシラとミツキが近づいてくる。


「瞬殺か。全くとんでもない強さだな。」


 ミツキが感心したように頷く。

 ミツキはかつて王都では結構高ランクのパーティに所属しており、高レベル帯の魔物生息地域で活動していた。ミツキの職業であるシーフは、ダンジョンやその他魔物がいるような場所には欠かせない職業だ。ミツキはその能力も高かったため若くてもパーティの一員として活躍できていた。同年代に比べてレベルが高いのもそのためだ。

 そのミツキから見てもユニスの強さは頭抜けている。姉のミネベアからユニスはLV30だと聞いていたが、この年でははありえないレベルだったため半信半疑だった。

 しかし数回の戦いの動きを見て、それは本当のことだといやでも理解した。と同時に、非常に頼もしく感じるのだった。


「次はミツキの戦いを見てみたい。キルラビットとは戦えそうか?」


 ユニスの問いかけにミツキがにやりと笑みを浮かべる。


「もちろんだ。これくらいの魔物とは常に戦ってきた。1体なら簡単だ。2体でも時間をかければ倒せる。」

「よし、じゃあ次キルラビットが2体以下だったらミツキが戦ってくれ。3体以上の時は都度指示する。」

「わかった。」


 3人がしばらく進んでいくと、再びミツキが立ち止まり身をかがめた。


「いた。おあつらえ向きにキルラビット2体。左からくる。」

「じゃあ頼んだ。危険だと思ったら加勢する。」

「余裕だぜ。」


 ミツキはユニスとプリシラに向かって親指を立ててアピールする。と同時に左から草をかき分ける音が聞こえ、間もなくキルラビットが姿を現した。

 すかさずミツキはダッシュでキルラビットに近づいていき、接近するキルラビットを寸前で躱して横をすり抜けた。

 2体のキルラビットは急減速で立ち止まり体をミツキに向けようとする。が、それができたのは1体だけで、もう1体はつんのめって頭を地面にぶつけていた。

 よく見るとコケた1体の右足が血を流している。


「すれ違いざまに足を切っていたのか。」

「私には速くて見えませんでした。」


 ユニスとプリシラは感心して戦闘の観戦をつづけた。

 傷つけられたキルラビットはそれでも立ち上がってミツキへと向かっていく。傷は深くはないようだが動きはやや鈍っている。

 ミツキはと見ると、両手にナイフのようなショートソードを逆手に持って構えている。その2刀でキルラビットをけん制し、攻撃を回避し、タイミングよく切りつけながら2体と対峙していた。

 彼女が二刀流ということは事前に聞いていたが、彼女の動きは様になっている。力がなく致命傷を与えにくいが、戦いは危なげない。

 ユニスが今まで見てきた冒険者の中でも避け方が非常にスムーズだ。彼女の特殊能力の”回避”が発揮されているからだろう。彼女の特殊能力が優秀であることを改めて知ることができた。


 結局、キルラビットは2体とも体のあちこちを傷つけられほとんど動けなくなったところでミツキに首を傷つけられて出血し絶命した。


「お疲れ。危なげなかったな。」


 ユニスがミツキに近づいてねぎらうと、ミツキは笑った。


「言った通り余裕だ。ダンジョンでは毛皮を気にする必要がないから楽でいい。」


 ミツキの言う通り、彼女の戦い方をダンジョン外でやると外傷が多くなるため魔物の皮などの価値が減る。ダンジョンでは魔石以外消えてなくなるためそのあたりは考えなくてもいいのでミツキの戦いの自由度も上がる。


「すごく動き回ってましたが、疲れませんか?」


 プリシラが心配そうに聞いてくる。ユニスとは違いミツキは戦闘にかける時間が長いので、疲労もあるのではないか。

 しかしミツキは首を横に振った。


「いや、これがほとんど疲れないんだ。多分”回避”能力の影響だろうな。余計な力を使わずに動いている感じだぜ。」

「そうなんですか。やっぱりすごい能力ですね。」


 プリシラは素直に感心する。その意見にはユニスも同意だ。知れば知るほどミツキの回避能力はメリットばかり見えてくる。

 索敵が出来、戦闘もこなす。さらに罠にも対応できるとなればパーティとして出来ることが大きく広がる。能力面だけ考えれば、仮とはいえミツキがパーティに加入したのは間違いなく大当たりだ。ユニスとしては追放してくれた前パーティに感謝したくなるくらいだ。


(だが彼女の追放のきっかけになったのもその能力だ。王都にいた時は問題にはならなかったがとは言ってたが、被害自体はあったらしいし。さて、どうするか)


 ユニスは2人と会話しながらも、ミツキの能力、そしてパーティにとって最善の方法は何かを頭の隅で考え続けていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る