第11話 魔物とレベルのデータ
プリシラのレベル上げは順調だった。
その理由は、一つは高レベルのユニスがいることでそこそこ強い魔物がいる場所でも狩りが可能であることだ。レベル30にユニスは大概の魔物を簡単に倒せるので、高レベル帯ので活動ができる。そしてプリシラと2人で経験値を分けるので、通常の新人パーティよりも経験値の入りが大きいのだ。
さらにもう一つ理由がある。
「・・・ふぅ、倒せたか。」
剣を収めながらユニスがつぶやく。ユニスの足元にはグリズリーと呼ばれる熊の魔物が横たわっていた。
「ユニス、お疲れ様。」
後方で待機していたプリシラがユニスに近づく。
「このグリズリーは初めて倒したな。どうだ、経験値は?」
「はい、今回の戦闘で経験値が9増えてます。だからこのグリズリーは経験値18ということになります。」
プリシラが自分のギルドカードで経験値の増加分を確認してユニスに伝える。
「18か。あまり美味しくないな。」
ユニスはそれを聞いて魔物を評価する。
「こいつは力は強いし、意外と素早い。だから倒すのに時間がかかる。肉も硬いから安いらしいし、無理に狩る必要はないな。」
「今のところ、オークが一番でしょうか。」
「だな。だが群れているのが難点だ。うまいことバラでいればいいんだが。」
ユニスは林の先のほうを見ながら言った。
もう一つの理由、それは『各魔物ごとの経験値を知っている』からだ。
パーティを組んだ初めのころ、プリシラがユニスに一つの木板を見せてきた。そこにはパーティで倒した魔物の名前と、その横に数字が並んでいた。
「これ、魔物の経験値です。倒した後の経験値の増加量からそれぞれの経験値を割り出してます。」
プリシラは魔物を倒すたびにカードをチェックしてその数字を記憶、計算して魔物の経験値を割り出したのだそうだ。なんでそんな面倒なことを、とユニスはそのときには思ったのだが、倒す魔物の数が増え、その経験値がわかっていくにつれ、その効果が現れてきた。
通常冒険者は魔物の経験値を知って狩りをしているわけではない。一般に魔物レベルが高く強いほど得られる経験値も高い『だろう』と考えられている。間違ってはいないのだが、魔物には個体差もあるため、期待通りの経験値が得られるかどうかなんて誰もわかっていないのだ。
だがユニスとプリシラには、箱の力によって魔物の経験値がわかる。経験値がわかれば、その倒しやすさ、生息数、習性などを考えて、効率的な狩りが可能となるのだ。
これは地味ながらも非常に有益だ。これにより、2人のパーティの経験値効率がさらに高くなったのだ。
その2つの理由により、プリシラの経験値は通常よりはるかに速いスピードで増えている。ユニスとプリシラの想定では、通常の冒険者の3倍以上のスピードで経験値が増えているとみている。一般にレベル4から5に上がる期間の目安は大体4~5か月ほどかかると言われているから、この調子なら1か月ほどの活動でプリシラのレベルが5に上がるだろう。
そしてその時は訪れた。
「あ、レベルが上がりました!」
狩りを終えて宿に戻ってきた後、ユニスの部屋でプリシラが経験値を箱から取り出した時に、プリシラのレベルが上がった。
「やったな!これでようやくレベル5だ。」
ユニスもプリシラと一緒に喜ぶ。それもそのはず。レベル5以上ならば塔の中級ダンジョンに入ることができるからだ。
喜ぶプリシラは、「あ」と、思い出したように鞄を探ってノートを取り出した。
「忘れないうちに記録しなきゃ。えーっと。・・・」
プリシラが何やら書いていたかと思うと。
「わかりました。レベル4から5に上がるのに必要な経験値は、『3700』です。」
と笑顔で言った。
「は?レベル4から5に上がるための経験値?」
「はい。レベル4に上がった時から経験値をずっと記録していたんです。今日5に上がったので、その必要経験値がわかりました。」
「へ・・・へえ。そうなんだな。けどそれって何の役に立つんだ?」
ユニスはそう疑問を口にした。ユニスもプリシラも、今後LV4から5に上がることなんてないはずだ。プリシラの特殊能力でレベル分与すれば別だが、そんなことそうそうあるはずがない。だから必要経験値がわかったところで、もはや2人の役には立たないのだ。
するとプリシラはニコリとして言った。
「確かに、今の私たちには役に立たないのはわかってます。でもいずれ魔物と経験値の関係は公表すべきでしょうし、ならばレベルアップに必要な経験値もわかっておいたほうがいいと思うんです。」
プリシラは経験値の情報は今後冒険者に役に立つものと考えているようだ。たしかに2人のためではなく全冒険者のためならば意味があるだろう。
「プリシラがそれで良ければ俺は文句は無いぜ。」
ということでプリシラは経験値データの収集を継続することとなった。
その後、時を経てこの「魔物経験値とレベルアップ」のデータはギルドを通じて冒険者に公開されることになる。そして冒険者たちからその有用性が認識されるにつれ「冒険者の育成に欠かせない情報」と位置づけられ、当代はおろか後世まで伝えられ、それによりユニスとプリシラの名前は不朽のものとなるのだが、今のユニスとプリシラはそれを知る由もなかった。
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