第10話 自動収納
ユニスとプリシラはギルド長室を後にした。
別れ際にハイザードにプリシラの弟のことを尋ねられ、「冒険者になっているらしい」と話すと、情報を集めてくれることを約束してくれた。
「ハイザードさん、いい人でしたね。」
「・・・ああ、悪い人じゃない。俺には鬱陶しいがな。」
ハイザードは本気でプリシラの親代わりになるつもりのようだ。ユニスに対していろいろと注文を付けたり釘を刺したりしてきたため、最後はユニスもうんざりしていたのだ。プリシラのことを気に掛けてくれることはわかったので、文句は言えないが。
「それよりプリシラ。両親のことは探さなくていいのか?」
ユニスがプリシラに尋ねた。行方不明の両親のことを聞いたばかりだ。そちらに力を向けたくなるんじゃないかとユニスは思っていた。
しかしプリシラは首を振った。
「両親のことは気になります。でも話を聞いても手がかりはほとんどないので、何をすればいいか見当もつきません。だから今は心の中にしまっておきます。いつか両親の情報が出てきたときにまた考えます。」
「そうか。」
戦闘の時にプリシラの意識が他を向いていればそれだけ注意力が落ちて危険が増す。しかしプリシラは両親のことは割り切っているようなので、問題はないだろう。
「ギルド長からはプリシラがレベル10になれば自動的にDランクにするとお墨付きをもらったからな。まずはレベル10になるのを目標にして、頑張ろうぜ。」
「ハイッ」
ユニスとプリシラはレベルを上げるべく、西の山に向かって歩き出した。
2人はプリシラの両親の話は打ち切ったのだが、ユニスにはさっきのギルド長との会話の中で気になることがあった。
(3人目のパーティメンバー、サンディという女性。どういう人なんだ?)
ハイザードは話をするときに軽く触れたぐらいだったが、それが意図して触れなかったように感じた。ユニスには、彼が彼女のことをプリシラにあまり話したくないのではないかと気になった。
(まあ、今それをおっさんに突っ込んでも、あまり意味はないな。)
気にはなるが、それを今知ったところで、すぐにどうこうなるわけではない。プリシラも両親のことは今は気に掛けないと言っている。ならばおいおい分かればいいだろう。
ユニスは頭の中の考えを追い出して、これからの狩りに集中することにした。
◇◇
「さて、最初にプリシラに教えておくことがある。」
西の山の山麓に入ったところで、ユニスはプリシラに言った。
「なんでしょうか?」
「実は昨日、箱の機能を調べていたらまだ使ってない能力があることに気づいたんだ。」
「え?使ってなかった機能ですか。なんですかそれは。」
「それは『自動収納』。」
「自動収納?」
「ここを見てくれ」
ユニスは自分のギルドカードを取り出した。
・・・・
・登録 一覧表示(49)
・収納 LV3
・性能 LV4
ユニスは「収納 LV3」をタップした。
収納 LV1 通常収納
Lv2 体力、魔力貯蓄
Lv3 能力収納
「ここの『LV1 通常収納』をあまり詳しく見てなかった。昨日よく読んでみると、面白い記載がることに気づいたんだ。」
ユニスが「通常収納」をタップすると、その説明文が現れた。
『登録した物を収納する。またステータス関連の登録も可能(性能LVにより項目増加)。登録した物は一定期間で一定割合増加する(性能LV依存)。自動収納設定可能。』
「注目してほしいのは最後の部分、『自動収納設定可能』ってところだ。」
ユニスは文章の最期の部分を指さした。
「自動収納・・・ってことは、何もせずに勝手に入ってくるってことですよね。」
「そう。これが意外に便利なんだ。・・・お、ちょうどおあつらえ向きにウルフが来たぞ。」
ユニスが木々の奥に目を向けると、ウルフが3体、木々の間からこちらに向かって来ていた。
ユニスは剣を抜くとウルフに向かって駆け出し、瞬く間に3体を切り倒していた。この辺りはまだ街に近く魔物レベルも低い。今のユニスならばほぼ瞬殺だ。
転がった3体のウルフを前に、ユニスはプリシラを手招きする。
ダンジョンで魔物を倒すと、死体は消えて魔石だけが残る。しかしダンジョン外の魔物はその死体まで残る。これは魔石を取り出しにくい反面、メリットも存在する。
魔物を倒してギルドに持っていくと買い取ってもらえて毛皮や肉になり、また骨や外皮は剣や鎧になることもある。これがダンジョン外の魔物を倒すメリットだ。
ダンジョン内では魔石とたまにドロップ品を落とす。ダンジョン外では体がそのまま残る。どちらもそれぞれのメリットがあるが、冒険者に取ってはダンジョンのほうが人気が高い。ドロップ品の魅力、魔石の質、倒した魔物の運搬、魔物との遭遇率など、ダンジョンが有利な理由が多いからだ。
だがダンジョンでは得られない魔物の体は市場で一定の需要があるため、ダンジョン外で活動する冒険者も少なくない。
「ここがダンジョンだったら魔石だけ残るんだが、今はウルフの死体を丸々収納してみるか。」
ユニスは屈んでウルフの死体に手を置き、頭の中で「ウルフの死体、登録。収納」と念じた。
すると、ウルフの死体は一瞬にして消えた。箱内に収納されたのだ。
「よし、これでウルフは登録された。そして、このウルフを「自動収納」設定にするんだ。これは頭の中で考えるだけでいい。」
ユニスは今度は別のウルフに近づいた。
「プリシラ、よく見てろよ。」
プリシラに振り向いたユニスがにやりと笑い、そして右足をゆっくりウルフの死体に近づけた。そして、ユニスのつま先がウルフに触れた瞬間。
「あ、消えました!」
「この自動収納って機能は、頭で収納って考えなくても体の一部が接触さえすれば自動で収納してくれるんだ。今みたいに靴の上からでもできるし、それに、ほら。」
ユニスはもう1体のウルフへ、手に持ったままの剣先を近づけた。剣先がウルフに触れると、またもウルフは地面から掻き消えた。
「こんな風に、直接触れなくても自分が身に着けているものを介してでも接触すれば収納できる。」
「なるほど、これは使いようによっては便利機能ですね。」
この自動収納は、登録されている物であれば意識せずとも自動で収納してくれる。すごく有効、というわけではないが、役に立つのは間違いない。
「ユニスはこの自動収納を昨日試してみたんですか。」
「そうだ。昨日宿の外に出て、石ころでいろいろ試したんだ。面白かったぞ。歩くたびに足の下にある石ころが消えて歩きやすく・・・・・・あっ!」
ユニスが何かに気づいたように突然声を上げた。
「ユニス、どうしたんです?」
「石ころの『自動収納』を切ってなかった。」
「え?」
ユニスは慌てたようにギルドカードを取り出して確認した。
登録 1 経験値(912)
2 お金(294,300)
3 体力:180/180
4 魔力:30/30
・・・・・
・・・・・
10 石(礫) (4,719)
11 ウルフ(死体) (3)
・・・・・
「石ころが貯まりまくってる。道理で歩きやすいと思った・・・。」
「箱に設定しておけば、知らないうちに集まってくるってことですね。」
「でも石は要らん・・・。」
ユニスは箱の中の石を取り出した。昨日から歩きながら(自動で)集めまくっていた石は、全部取り出すと胸くらいの高さの小山になった。
「これは自動収納の切り忘れに注意しないといけないな。」
「そうですね。それと、」
「ん?」
「お金や貴重品の『自動収納』はやめておいたほうがいいと思います。」
「・・・・・・・なるほどな。」
プリシラの懸念はもっともだ。もし何かのはずみで他人のお金に触れてしまったら、当然盗んだことになってしまう。その気はなかったと言って言い逃れできるものではないだろう。やはりお金に関してはやらないほうが無難だ。
箱はメリットが多いが、デメリットにもなる。気を付けないといけない。
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