第9話 プリシラの両親
「私の、家族の事・・・。」
ハイザードの言葉にプリシラが驚いて彼を見つめる。どうやらハイザードはプリシラの家族について何か知っていることがあるようだ。
「知ってるんですか!父や母のことを!」
プリシラが叫ぶように言った。彼女は冒険者になったのは、行方不明の両親を探したいというのも理由の一つだと語っていた。ハイザードが何か知っているなら聞きたいのは当然だ。
「ああ、ご両親のことは知っている。が、・・・」
ハイザードは歯切れが悪そうに言ってユニスを見た。ユニスにはそれだけでハイザードの言いたいことが理解できた。
「プリシラ、俺は席を外しておく。下で待ってるから話が終わったら来てくれ。」
プリシラの家族の話をするのにユニスは必要ない。ユニスは立ち上がって部屋を出て行こうとした。
「ま、待って。待ってください。」
そんなユニスを見てプリシラは慌てて服をつかんで彼を引き留めた。
「家族の話だろ。俺が聞かないほうがいいんじゃないか?」
ユニスは振り返ってプリシラを見た。プリシラは首を横に振った。
「ユニスが聞いてもいいんです。いえ、聞いておいてほしいんです。家族のことはすでに少し知ってるし、それに・・・パーティだから。」
プリシラは、最後は少し恥ずかしそうに顔を赤らめて言った。
ユニスはハイザードを見た。彼はユニスと視線が合うと、少し考え、そしてゆっくりと頷く。
「わかった。一緒に聞こう。」
ユニスはプリシラの隣に座り直し、2人で改めてハイザードに向き合った。
ハイザードは口元に笑みを浮かべて意味ありげな視線をユニスに送ったが、ユニスは気づかぬふりをして無視した。
「先に確認しておくんだが」
ハイザードはプリシラに向かって聞いた。
「プリシラの両親の名前は、エイサムとマリーで間違いないか?」
「!・・・ハイ、その通りです。」
「そうか、やはりな。」
ハイザードは納得したように頷いた。
「最初今回の討伐者の名前にプリシラの名前を見た時、少し記憶に引っかかってな。ただその時はプリシラって名前は珍しくないし、さほど気にも留めてなかった。だがプリシラが部屋に入ってくるのを見て驚いたぜ。
マリーに、似ていたからな。」
ハイザードはプリシラを見た。その目は優しく、そしてどこか悲しげだった。
「それにな、プリシラの声にも驚いた。声もマリーに似ている。俺は確信したね。プリシラはマリーの子に間違いないってな。」
「ハイザードさんは、母を知っているんですか?」
プリシラが身を乗り出すようにしてハイザードに尋ね、ハイザードはゆっくりと頷いて答えた。
「ああ、知っている。それにエイサムも知っている。俺たちはパーティを組んでいたからな。」
「え、パーティーを!」
ハイザードが語った内容にプリシラもユニスも驚いた。プリシラの行方不明の両親が、現ギルド長とパーティを組んでいたなんて初耳だった。
「それにな、プリシラ。実はお前さんにも2,3度会ったことがあるんだぜ。」
「え?」
ハイザードの発言にプリシラは驚き戸惑った。ハイザードはプリシラにも面識があるという。プリシラはハイザードの顔を見て何とか思い出そうとしていたが、やがて力なくうなだれた。
「すみません。覚えていません。」
「ハッハッハッ、無理もねえ。プリシラがまだ小さかった時の話だ。生まれたばかりの時と、4,5歳の時かな。しかも5歳の時は怖がってマリーの後ろに隠れてたから、まともに顔も見てねえだろう。」
ハイザードは笑い、プリシラはさらに恐縮して「すみません。」と小さく言った。
そんな2人の姿を見て、ユニスは思った。
(最初にプリシラばっかり見ていたのは、そういうことだったのか。ロリコン呼ばわりして悪かったな、おっさん。)
そんなユニスの視線に気づいたハイザードは
「ん?なんか言いたげな顔してるが?」
と、カン鋭くユニスに聞いてきた。
「いや、別に何もない。」
「そうか?なんか失礼なこと思われてた気がしたんだが。」
「気のせいだ。」
ユニスはハイザードの追及を素知らぬ顔でごまかすのだった。
「しかし、そうか。エイサムとマリーの娘が冒険者にねえ。・・・もしかして、両親を探すために冒険者になったのか?」
「はい、それもありますが、いろいろな事情がからんで今に至ってます。その・・・」
「ま、詳しくは言わなくてもいい。」
ハイザードはプリシラの話を遮った。あまり話したいような理由じゃないことを察したようだ。
「エイサムとマリーの行方不明に関する事で俺が知っていることを全て話そう。と言ってもそれほど詳しい話じゃない。なにせ情報が少なすぎるんだ。」
ハイザードの話は要約するとこのような話だった。
7年前、ハイザードはエイサム、マリーとパーティを組んで、バランの街を中心に活躍していた。パーティにはもう一人サンディという女性魔法使いがいて4人組だった。4人は仲が良く、特にトラブルもなかった。。
事件が起こる前、ハイザードは足のケガでしばらくパーティを離脱していて、その間3人でギルドの依頼を受けるなどして活動していた。
そしてある日、3人はバランの街の外に出たまま、全く帰ってこなかった。
ハイザードは3人の情報を集めたが、どこに向かったかもわからなかった。彼らの部屋にある荷物も普段と変わらないような状態で、遠出や長期不在を思わせる雰囲気ではなかった。
ある冒険者からは、エイサムが『依頼を受け、北に行く』と話していたと証言した。しかしギルドではエイサムたちが依頼を受けた形跡はないという。ギルドを通さない依頼のようだが、いろいろと調査しても依頼主は判明しなかった。
ハイザード以下冒険者たちは方々を探し様々な伝手を使って調査したが、結局詳しい情報は得られず3人の足取りはつかめなかった。
「俺が知っているのはこれくらいだ。その当時はかなりの数の冒険者が協力してくれたんだが、これ以上情報がつかめなかった。本当に霧のように消えちまったかのようだったぜ。
俺はそれ以来他の奴らとパーティを組む気になれなくてな。ケガの影響もあってその後冒険者を引退したんだ。」
ハイザードは語り終わると、寂しそうな顔をした。
気心の知れた仲間が突然いなくなってしまった、その心境はどのようなものだっただろうか。ハイザードはケガから立ち直る目標を失ってしまったのだ。
「ハイザードさん、話していただいてありがとうございました。」
プリシラが頭を下げてハイザードに感謝した。少しとはいえ両親の情報を聞けたのだ。それがどんな情報でも、プリシラにとってはありがたかった。
「感謝される様な話じゃねえ。むしろ何もできなくて申し訳ないくらいだ。」
「それでも、いろいろ手を尽くしていただいたことに感謝します。」
プリシラの感謝の言葉にハイザードは嬉しそうだった。
「プリシラはいい子に育ったな。エイサムやマリーに見せてやりてえよ。」
と言ったハイザードは、ぐっとまじめな顔つきで言った。
「プリシラ。冒険者生活はつらくないか?」
それに対し、プリシラは迷いなく笑顔で答えた。
「はい。冒険者になって、今が一番楽しいです。」
「・・・そうか。」
ハイザードはプリシラの答えにフッと笑みを浮かべ、ユニスに目を向けた。プリシラの笑顔の理由であろうこの男の顔をまじまじと値踏みをするように見つめ、しばらくしてようやく鋭い視線を緩めて口を開いた。
「ユニス。お前、プリシラを必ず守れよ。」
「言われなくてもそのつもりだ。」
「プリシラを泣かせたら、俺が親代わりにお前をぶんなぐってやるからな。」
「な、なんであんたが殴るんだよ。いつ親代わりになったんだ。」
「たった今だ。」
「勝手になるんじゃねえ!」
2人の口げんかを、プリシラは笑顔でそれを見ていた。
ハイザードは口には出さなかったが、ユニスを『プリシラを預けるに足る男』と認めてくれたのだろう。プリシラにはそれがわかって、とてもうれしく思うのだった。
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