第8話 ギルド長
◇◇
「いやー、面白い話を聞かせてもらった。ボス部屋の中で急激にレベルアップするなんざ、ダンジョンも想定外だっただろうな。ハッハッハ。」
話を聞き終わったハイザードは大いに笑いだし、ユニスとプリシラはあっけに取られていた。
話を聞く間ハイザードは、驚き、憤慨し、不安な顔をし、そして笑った。彼はギルド長としてではなく、一冒険者として話を聞いて一喜一憂しているようにしか見えなかった。ハイザードは話口調は冒険者そのもので、ギルド長などという偉い役職にはまったく思えない。
ユニスもプリシラも、大都市のギルド長なのに全く偉ぶらず、裏表もなく同じ目線で話をするハイザードに、自然と好感を持ったのだった。
「しっかしユニス、お前も案外間抜けだな。」
「!」
「レベルが全く上がらない冒険者がいるってことは当然俺の耳にも入っていたぜ。その冷静な戦いぶりについての評価も含めてな。だがその理由が、後先考えずに箱に経験値を登録してしまって取り出せなくなったからっていうんだから、お前には悪いが笑っちまったぜ。」
ハイザードはクククと笑いながらユニスを見た。彼の口調は単純に面白がっているだけで、ユニスを馬鹿にするような感じは含まれていなかった。
ユニスは彼に昔のことを言われて怒りそうになったが、このストレートな物言いに逆に怒る気が霧散してしまった。
「・・・間抜けで悪かったな。」
ユニスはそう一言だけ言ってそっぽを向き、怒ったふりをした。
「だが、結果的にはよかったじゃねえか。」
ハイザードは笑いを収めて言った。
「経験値がたまっていなけれりゃ、イレギュラーボスは倒せなかった。倒せたのは突き詰めればユニスのミスのおかげだ。そう考えりゃ、今レベルが30になっるもの、プリシラの能力を活用できたのも、もしかしたらプリシラに出会ったことも、全部ユニスのミスのおかげだって言えるかもな。」
ハイザードの言葉に、ユニスとプリシラはお互いの顔を見合わせた。2人は紆余曲折あって今はパーティを組んでいる。もし2人が出会わなかったとしたら・・・。2人にはそんなことは考えたくもなかった。
「今が良いと思えるなら、昔のことも笑って話せる。そうだろ?」
ハイザードの言葉にユニスはためらいながら頷いた。
ユニスには自分の過去をまだ引きずっている部分があった。それだけ過去の3年間は苦難の連続で、楽しい思い出はほとんどなかった。しかしハイザードの話を聞いて、ユニスは少しだけ心の重荷が取れたような気分になった。
「っと、説教くせえ話をしてしちまったな。わるいな。とにかくお前たちの話を聞けて楽しかった。」
話はこれで終わり、という雰囲気をハイザードは醸し出した。これにはユニスもプリシラもすこし意表を突かれた。
「あのー、今日の呼び出しの理由って、これだけですか。」
プリシラが恐る恐る聞いた。ユニスもそうだが、ギルド長として何か別の思惑があって話を聞いたのだと考えていたからだ。
「ん?『話を聞きたい』と伝えたはずだが。」
ハイザードは怪訝そうな顔をする。
「え?本当に話を聞くのが目的ですか。」
「そうだ。」
「何か私たちに命令とか、指示とか、そういうのは・・・」
その言葉を聞いて、ハイザードはようやく合点がいったかのような顔をした。
「あ?・・・あー、そんな心配してたのか。そんなものはねえ。ただ俺が話を聞きたかっただけだ。」
「・・・」
「初めてイレギュラーボスが討伐されたんだ。ギルド長として詳しく知っておかなきゃいけねえ。・・・って建前で、面白そうな話が聞きたかっただけだ。」
そう言ってハイザードはまた豪快に笑った。
それを見てユニスはホッとしていた。ユニスたちの心配は全くの杞憂だった。
「さて、話は終わりだとさっき言ったばかりだが・・・実は、いきなりだが別件で話をしなきゃならない。」
ハイザードの雰囲気が変わり、まじめな表情になる。
プリシラはえ?という表情をし、ユニスはやっぱりそうなのか・・・と、めんどくさそうな感情を隠しもしなかった。
「あ、さっきの話は嘘じゃねえ。本当に今日は話を聞きたかったから呼んだだけだ。だが、お前らを見た時にこれはどうしても話さなくちゃならねえって思ったことがある。」
ハイザードは慌てて言い訳をした。
「急に、ですか。」
「ああ、急だ。姿を見て、声を聴いて、確信したことがある。」
ハイザードは声を落とした。今までのハイザードの様子とは違う、何やら重い雰囲気を醸し出していた。
「プリシラ。話というのはお前さんに関する事だ。」
ハイザードはプリシラを見つめて言った。ユニスはそれを見て、最初にギルド長室に入ってきたときの含みのある視線を思い出して、大いに警戒した。
「私に?どんな話でしょう。」
プリシラが問うと、ハイザードはちらりとユニスを見て、そして言った。
「プリシラの家族の話だ。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます