第7話 ギルド長からの呼び出し

 ユニスとプリシラがパーティを組んで数日後の事。

 2人のレベル上げは順調で、西の山麓では危険もなく狩りができるようになり、最近はもう少し奥の地域へと狩場を移動していた。

 奥に行けば魔物は強くなるが、その分経験値も多く手に入る。ユニスたちはパーティの力と魔物の力とを慎重に判断しながら、できるだけ稼ぎのいいやり方で狩りを続けた。

 その甲斐あってか、昨日プリシラはレベルが3から4に上がった。


「レベルアップも久しぶりです。」


 これまでなかなかレベルアップがなかったプリシラにとって、それはとても嬉しく感じるのだろう。彼女は終始ご機嫌だった。



 その翌日のこと。

 この日もユニスとプリシラは街の外に狩りに行く予定だったのだが、2人がギルドに入った時、それを見つけた受付嬢のミネベアが2人を呼び止めた。


「ユニスさん、プリシラさん。すみませんがこれからお時間をいただけないでしょうか。」

「?どうした?何か用事でもあるのか?」

「ギルド長がお呼びです。」


 ギルド長からの呼び出しと聞いて、2人は驚いてお互いの顔を見合わせた。


「ギルド長が?いったい何の用だ。」

「イレギュラーボス討伐の件で2人から直接話を聞きたいそうです。あの日ギルド長は王都に出張中で不在でした。昨日出張から戻ってすぐ、お二人がギルドに来たときは連れてくるようにと。」


 ミネベアの話を聞いて、ユニスは舌打ちしたくなった。ユニスとしては、あの時の話はすでにギルドに話していたので、改めてギルド長に話をするのは時間の無駄だと感じていた。

 だが、国内有数のダンジョンであるバランの塔を管轄するギルドの長なのだ。並大抵の人物では務まらない。さらにバランの街のギルド長は必然的に大きな権力を持っていて、その意向は王都にも影響力を持つとも言われている。

 そのギルド長の命令を、ユニスたちは断れるはずがない。

 しかし、ボス戦の詳細はすでにギルドの聞き取りが済んでいる。話を聞くというのは口実で、何か別の意図があるのではないか。ユニスとプリシラは、程度は違うが同じ懸念を感じていた。


「・・・今からなのか?」


 ユニスはため息をつきつつミネベアを見た。


「はい。今日は部屋にいるので、2人が来たらいつでも連れてくるようにと。」

「わかった。・・・プリシラもいいか?」

「は、はひっ。」


 ユニスが振りむいて聞くと、プリシラは明らかに緊張しており、返事をかんでしまった。


「ではこちらです。」


 2人の了解の返事を聞き、ミネベアは2人を案内してギルドの奥に進んでいき、2人も後に続いた。


 ギルド長室は、3階の一番奥まったところにあった。ユニスもプリシラもさすがにこんなところに来たのは初めてだ。2人とも程度の差こそあれ、周囲を見回しながらミネベアの後ろを歩いていく。


 最奥の部屋の扉の前に立ち止まって、ミネベアはノックした。


「ギルド長。ユニス、プリシラの両名をお連れしました。」

「いいぞ。入ってくれ。」


 部屋の中からやや野太い声が響く。

 ミネベアが扉を開けるとその正面に見えたのは、書類の山が積まれている机と、その真ん中に座っている男だった。その男がギルド長だ。

 ユニスもプリシラも直接面識はなかったが、ギルドに出入りしているためこれまで2,3度は見かけたことがある。

 ギルド長は見た目は40過ぎぐらい。いかつい顔立ちをしていて、頭髪は短めのブラウンだ。体つきはかなりがっしりしていて、服の上からもその筋肉のつき方がわかる。

 ギルド長は2人に視線を向けると、すぐに立ち上がって2人を招き入れた。


「急に呼び出したりしてすまんな。俺がギルド長のハイザードだ。」


 近づきながら自己紹介をしたギルド長は、2人に笑顔を向けた。これがバランのギルドを束ねるギルド長なのだが、姿や雰囲気、口調はどちらかというとベテランの冒険者のようだ。とっつきにくい感じではなく、むしろ後輩を迎えるような雰囲気を醸し出している。

 それもそのはず。今のギルド長は元高位の冒険者で、ケガで引退するまでは最前線で戦っていた猛者だった。引退後にギルドに入り、今はギルド長にまで出世している。


「ユニスだ。」


 そうそっけなく自己紹介をしたユニスだが、あることに気が付いた。ユニスとプリシラの2人がいるのだが、ギルド長の視線はプリシラの方ばかりを向いていて、ユニスにはほとんど目を向けていない。


(なんだこのオヤジ、プリシラばっかり見て。ロリコンか!?)


 これはプリシラの危機だと感じ、ユニスは一層鋭い目でギルド長を見つめた。


「プリシラです。」


 プリシラの自己紹介に、ギルド長であるハイザードがほんの僅か驚きの表情を浮かべた。が、それも一瞬のことで、すぐにその表情を消し何気ない口調で2人に言った。


「2人には直接ボス討伐の話が聞きたいと思ってな。ま、座って話をしよう。」


 ハイザードは2人にソファに座るよう勧め、2人はそれに従って座った。

 席に着いた3人。ギルド長の後ろにはミネベアが立っている。

 ハイザードはおもむろに口を開いた。


「話を聞く前に、先に伝えておくことがある。ユニス、お前はCランクに昇格だ。」

「「Cランク!?」」


 ハイザードの言葉に2人が驚く。ユニスの冒険者ランクは現在Eランク。それがCランクに昇進となれば飛び級である。


「Dランクを飛び越していいのか!?」


 ユニスが尋ね返すが、ハイザードは笑って言った。


「ユニス、お前自分の偉業に気づいてねえな。お前はこの街始まって以来初めてイレギュラーボスを倒した男なんだぜ。」


 ハイザードの言葉通り、イレギュラーボスの討伐は実は史上初めてだった。

 初級に限らず、中級のボスでもイレギュラーボスの出現報告が十数例ある。しかしそのいずれも討伐には至らず、命からがら逃げだしているのだ。もしかしたらパーティが全滅しているため出現報告がない場合もあるだろうが、いずれにせよ倒せていない。

 これはダンジョンに入るためのレベル制限が影響している。初級の場合ダンジョンにはレベル15以下でなければ入れない。中級の場合はレベル35以下だ。そしてイレギュラーボスはそれより10以上はレベルが高い魔物が現れる。そのためイレギュラーボスに出会ってしまったら即帰還玉を使用するように、とギルドで通達されているほどだ。

 そんなボスをユニスたちは初めて倒したのだ。いろいろと特異な状況が重なったこととはいえ、「史上初」という名の冠には、ユニスとプリシラの名が刻まれることになった。


「そんな奴がいまだにEランクだなんて言ってたら、バランのギルドは何やってんだって言われちまう。それにユニスはレベル30になったんだろ。Cランクでも低いくらいだ。ギルド長が決めたんだから文句言う奴なんていねえ。安心してCランクを名乗れ。」

「ああ、分かった。感謝する。だがプリシラはどうなんだ?」


 ハイザードはユニスの話はしたが、プリシラについては言っていない。それを言われてハイザードは少し顔をしかめた。


「プリシラも昇格、と言いたいところなんだが、さすがにプリシラはレベルが低すぎる。これで昇格させた場合、今の彼女には危険な依頼も受けられるようになってしまう。だから今のところ昇格は無しだ。ただし、」


 ハイザードはプリシラを見つめ直した。


「プリシラがレベル10に上がれば、自動的にDランクに昇格できるようにしておく。ユニスとの処遇に差があって申し訳ないがこれが精いっぱいだ。」


 ハイザードは申し訳なさそうに言った。

 ユニスはプリシラにあまりメリットがないことから不満だったが、一方では仕方がないこともわかっていた。Dランクは十分な実績を積んだ者がなれる。そのため10~20レベルの者が多い。実績は別としてレベル4のプリシラがDランクになったとなれば、無用な軋轢を生むかもしれない。

 それにギルド長が「レベルが上がれば無条件でDランクにする」と明言している。今はこれで満足すべきだろう。


「私は実際の戦闘では何もしていません。だからそれでいいです。」


 ユニスが何か言う前にプリシラが答えていた。ユニスはプリシラを見ながら、無言で「了承」の意を示した。


「そうか、了解してくれるか。すまんな。」


 ハイザードはややほっとしたように言った。


「ランクの話はここまでだ。さっそくだがイレギュラーボスの討伐の話を聞かせてもらおう。」


 ハイザードは居住まいを正して、話を聞く姿勢を取った。気のせいかとても期待しているようで、目が輝いている。

 2人はハイザードにゆっくりとボス戦の顛末を語った。ユニスやプリシラの特殊能力のことはギルドはある程度把握しているはずである。なので特殊能力のことも交えながら話したのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る