第6話 初日
翌日、ユニスとプリシラは午前中に防具屋、武器屋、道具屋を回った。
メインはプリシラの防具だ。彼女の防御力が高くなればそれだけ安全に狩りが出来る。
最終的にこれまで彼女が着けていた物より2ランクほど防御力の高いローブや衣服を購入したためお金はかかったが、命にかかわるものなのでいいものを買った。
武器屋は覗いただけになった。ユニスの武器はドロップ品の「ジャイアントキラー」があるため必要はない。プリシラも防具を新調したため杖などは次の機会にした。
道具屋では初級のポーションやキュアポーションなど、いくつか購入した。
これで準備は整った。
昼からは街を出て西を目指し、山麓で魔物を探した。
「お、いたぞ。ワイルドウルフ2体だ。」
ユニスたちは草陰に隠れてウルフを観察する。ワイルドウルフはLV7程度の魔物だ。2体程度であればユニスにかかれば全く問題ない。
「速攻で仕掛ける。プリシラは討ち漏らしに注意してくれ。あと後方にも注意を。新たな敵が現れたらすぐ教えてくれ。」
ユニスが振り向いてプリシラに向かって指示を出すと、プリシラはこくりと頷いた。それを見てユニスは視線をグレーウルフに戻した。
グレーウルフはこちらに気づいていないようでゆっくりと近づいてくる。丁度いい間合いに入った時、ユニスは草むらから飛び出した。
いきなり現れたユニスにウルフたちはすぐには対応できず、1体は態勢を整える間もなくそのままユニスの剣にかかって絶命した。
もう1体はすぐにユニスに牙と爪を向けて飛びかかる。しかし1対1となってはLV30のユニスの敵ではない。ユニスが剣を振るうと、ウルフの首筋を切り裂いた。
「キャインッ・・・」といううめき声とともにウルフは首から血を流して、そのまま倒れた。
「ふう・・・。」
ユニスは倒れた2体のウルフを見て絶命していることを確認したのち、自分の手に持つ剣をしげしげと眺めた。このジャイアントキラーはまるでユニスのためにあつらえたように手になじんだ。切れ味も抜群、筋力の付与もあり全く苦も無くウルフを切り裂いた。ユニスはいい剣を手に入れたと改めて感じたのだった。
「ユニス、すごく強いです。一瞬で倒しちゃいました。さすがです。」
プリシラがタタタッと駆け寄ってくる。
「ああ、全く問題ないな。」
ユニスは笑顔で答える。
しかし今の戦闘において、実はユニスには2つほど問題があった。1つ目は、まだ筋肉痛が少し残っている事だ。ただ、だいぶ痛みは取れ体を動かしても我慢できるくらいだから戦いの気にはならない。
もう一つはそれよりも問題だ。ユニスの体の動きと自身の感覚にまだ齟齬があることだ。急激にレベルが上がったことによる副作用として、力とスピードに対して感覚がマッチしないのだ。これを解消するには、とにかく体を動かし戦闘を重ねて感覚を慣れさせるしかない。
今回の(ユニスにとっての)低レベル領域での狩りは、プリシラのレベルアップとともに、ユニスの戦闘訓練としても必要なことなのだ。
「それで、経験値はどうなってますか?」
プリシラがおそるおそるといった様子で聞いてきた。
「あ、そうだったな」
最初の戦闘後に箱の特性が間違いないかを確認するため、経験値を確認することを2人で決めていた。
「さっそく見てみるか。」
2人はギルドカードを取り出し、それぞれの箱を見てみた。
(ユニスのカード)
1 経験値(4)
・・・
(プリシラのカード)
1 経験値(4)
・・・
ユニスとプリシラは顔を見合わせた。ユニスとプリシラの経験値はどちらも同じ「4」が入っている。つまり箱に経験値をためることでプリシラの特殊能力「分与」が働かないようにできることがこれで確認されたのだ。
「・・・本当に、分与されてません。」
プリシラがうれしそうに言った。これまでいろいろな人に経験値を常に分け与え続けていたため、その分与の影響がなくなるのが嬉しいのだ。
「じゃあさっそく経験値をもらってみます。」
プリシラはそう言うと箱の経験値を取り込もうとした。それを見て慌ててユニスは止めようとした。
「あ、ストップ!まだ取り込むなよ。」
「え?・・あ、もうやっちゃいました。」
しかしユニスの静止は少し遅かった。プリシラは箱の経験値を自身に取り込んでいたのだ。
ユニスは自分のステータスカードを確認した。
(ユニスのカード)
1 経験値(6)
・・・
「・・・ああ、やっぱり。経験値が俺にも入ってる。」
パーティ設定を解除していないため、プリシラの経験値は箱から取り出した途端に分与されてユニスにも入ってしまっていた。そのためプリシラが得た経験値は、これまでと同様に減ってしまっていた。
「あ、そうでした。失敗しました。」
プリシラは慌ててミスしてしまったことに、しょげたようにうつむいた。
「馬鹿、気にすんなよ。次失敗しなきゃいいのだ。それにたった2減っただけだ。これからガンガン経験値が入ってくるんだから、そんなの誤差だぜ。」
ユニスはプリシラを元気づけるように明るく言った。
「そう、ですよね。次は失敗しません。」
プリシラもユニスの言葉に元気を取り戻して言った。
2人は次にまたウルフに遭遇し、ユニスが軽く倒した。そしてカードを操作してパーティ設定を解除してから、プリシラは経験値を取り込んでみた。
「うん、俺の経験値は増えてない。経験値は全部プリシラがもらったようだな。」
カードを見たユニスはプリシラに自分のカードを向け、プリシラの経験値を箱から取り出した前後でユニスの数値が増えていないことを見せた。
「本当です!私、分与されずに経験値をもらうことができたんですね・・・。」
プリシラはそれを実感するように、しばらくユニスのカードを喜びの表情でじっとで見つめていた。
ユニスはその嬉しそうなプリシラの笑顔を見て、自然と顔がほころんでくるのだった。
「今日からだ。」
ユニスはプリシラに言った。
「プリシラは今日から新しいスタートなんだ。今までの遅れなんてすぐに取り戻せるさ。いや、俺が必ず取り戻してやる。」
「ユニス・・・ありがとう。」
ユニスの力強い言葉に、プリシラは胸が熱くなった。ユニスは自分のことを考えて行動してくれている、そう思うと自然と目が潤んできた。
そんなプリシラの様子を見たユニスは、少し恥ずかしそうにプリシラから視線を切り、後ろを向いて歩き出した。
「さ、さあ、そうと決まればどんどん魔物を倒して、経験値を稼ごうぜ。」
「・・・ハイ!」
ユニスが歩く後をプリシラがついて行く。
初日の狩りは、2人にとってとても充実したものになった。
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