第5話 箱と経験値

 残るのは「LV4 貸与」。ユニスはそれに触る前にプリシラを見た。


「これはもしかしたら、俺たちが今一番欲しい能力かもしれないぜ。」


 ユニスはそう言ってギルドカードをタップして説明を表示させた。


『LV3 貸与:箱を他の人に貸し出すことができる。貸与期間設定可能。期間が過ぎれば強制的に戻ってくる。貸与数は1人5つまで。ただし貸与する箱に付与される特性は「収納」のみ。「性能」は付与されない。』


「やっぱりだ。プリシラ、お前に俺の箱を貸せるぞ。プリシラも箱を使えるようになる。」


 説明を読んだ瞬間、ユニスが叫ぶように言った。


「え?私に、箱を?私が箱を使えるようになるんですか?」

「そうだ。」

「すごいです、私も箱を使える・・・。」

「ああ、収納できるし、体力や魔力も倍増だ。すごいぞ。」


 ユニスはニヤリとして言った。


「そしてプリシラに貸した箱に『経験値』をためることもできる。」


 ユニスは上機嫌だったが、それに対しプリシラは冷静に、少し沈んだように言った。


「私も箱が使えるのはそれはとてもうれしいです。・・・けど、説明だと貸与した箱に「性能」に関する特性は無いことになります。だから私の箱に経験値を入れても増えて行かないと思うんです。」


 プリシラは残念そうだった。確かに説明書きには『「性能」は付与されない』とある。なので貸与した箱には性能「LV1 増加」はつかないため、貸与した箱に経験値を入れても、ユニスのように増えていかないのだ。


 しかしユニスは首を振った。


「たしかに貸した箱に性能が付与されないのは残念だ。もし性能がくっついていればとんでもないことなんだが、さすがにそこまでは無かったようだ。けど俺が言っているのはそこじゃない。」


 ユニスはプリシラを見て言った。


「この箱に経験値を設定しておけば、プリシラの「分与」の能力があっても経験値は分与されなくなると思う。」

「え!?」


 プリシラは驚いてユニスを見つめた。経験値が分与されないとはどういうことなのか。

 ユニスはプリシラに自分の推測を説明した。


「プリシラの箱に『経験値』を登録してから、パーティである俺が魔物を倒したとする。その時俺とプリシラは半分ずつ経験値を受け取ることになる。そしてその時のプリシラの経験値はプリシラには直接入らず、箱に入ることになるはずだ。」

「そうなりますね。」

「だからプリシラの受け取る経験値は0だ。経験値が0なら分与はできない。」

「・・・」

「だから、箱には分与されていない経験値が貯まっていくことになる。貯まった経験値を受け取るときには、一時的にパーティを解除してソロになって箱から取り出せば、分与されることなく全てがプリシラの経験値になる。これでプリシラの経験値が減ることはなくなるはずだ。」

「それ、すごいです。すごく嬉しいです!」


 プリシラは立ち上がって両手の指を組んで胸の前に上げるようにして全身で喜びを表した。プリシラは分与の影響でなかなかレベルが上がらず長い間苦労していたのだ。それが分与の影響を受けずに経験値を手に入れることができることになれば、嬉しくないはずはない。

 ユニスもプリシラの喜ぶ様子を見て自然と笑顔になっったのだった。




 ユニスはプリシラに5つ箱を渡した。受け取ったプリシラは、そのうち3つに経験値、体力、魔力を設定した。残り2つは今のところ未設定で、後で設定することとした。

 これによりプリシラのステータスは以下のようになった。


――――――――――――――――――――――――――――――

「ステータス」

名前:プリシラ

ランク:E

職業:司祭

レベル:3

SP: 20


体力: 30/30(+ 0/30)

魔力: 30/30(+ 0/30)

知力: 25

筋力: 6

敏捷: 10

器用: 7

耐久: 2


能力

 回復魔法 LV3

 火魔法 LV2


特殊能力

 分与 LV2:

 箱(貸与:5)

――――――――――――――――――――――――――――――


 ちなみに箱の貸与期限は、設定できる最大値である1年。1年後には継続設定する必要がある。


 プリシラの能力を確認して、ユニスは言った。


「この数値だったら普通のLV6~7くらいだな。なら西の山岳地帯に行ってもいいか。」

「箱で体力と魔力の底上げができるのが大きいですね。」


 プリシラが箱を借りて使うことで、プリシラのステータスが実質的に高くなった。これでプリシラの戦闘時のリスクも大きく減ることになるだろう。


「よし!明日は午前中で防具を購入して、午後からさっそくレベル上げをしようぜ。」

「ハイ!」


 ユニスの言葉にプリシラが元気よく返事をした。2人は明日からのレベル上げがとても楽しみになったのだった。

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