第18話 新戦術の効果
それからしばらくは新戦術のお試し期間だ。
まず、魔物が2体以下の場合はユニスが前衛になって対応する。これはミツキの疲労を軽減するためだ。
ミツキは常に回避行動をとるため他の2人に比べて動きが激しい。すべての戦いに前衛で対応していたら最後まで身が持たないだろう。
魔物が2体までならユニス一人でも問題はほぼない。それに戦いも短時間で済む。
3体以上の場合からミツキが前に出て魔物を引き付ける戦術となる。
3、4体の魔物の群れは幾度か遭遇し、全く問題なく対処できることがわかった。ただこの程度の数では新戦術が有効かどうかは判断できない。
3人はしばらくダンジョンの探索を続けてていく。
そしてようやく、その戦術が最も試される状況がやってきた。
3人が12階層を進んでいるとき、前を進んでいたミツキが立ち止まり、手で後ろの2人に合図してきた。
「右から魔物・・・6体。」
ミツキの声と共に3人に緊張が走る。ここまで魔物は危なげなく倒してきたが、6体はこれまでで最多だ。しかしここで通用しなければこの戦術の意味がない。3人はそれぞれ気を引き締めた。
「魔物は何かわかるか?」
「・・・ゴブリンソルジャーだろう。」
「武器を持っているな。注意しろよミツキ。」
「了解だ。」
3人が待機態勢をとっていると、草をかきわける音が大きくなり、やがて魔物が姿を現した。その魔物はミツキの見立て通りゴブリンソルジャー。
ゴブリンソルジャーは通常のゴブリンより体が一回り大きい。それだけでなくほとんどの個体が剣を持っている。まれに防具を身に着けている個体もいる。武器と防具、それだけでも難敵だ。
眼前に現れたゴブリンソルジャーは6体。手に剣や小刀を持っている。ただ、防具を身に着けている個体はいないようで、そこは少しだけ安心材料だ。
「ギギッ!」
「ギギギッ!」
ユニス達を視界に入れたゴブリンソルジャーは声をあげて戦闘態勢をとってきた。6体のゴブリンソルジャーは圧迫感があり、数字以上に多数の群れに感じる。だがそれでもユニス達は防ぎ倒さねばならない。
「ハッ!」
掛け声とともにミツキが駆け出し、真っ直ぐにゴブリンソルジャーに迫る。そして中間地点でやや進路を左に変えた。
ミツキの目前にゴブリンソルジャーが迫り、一番近い個体が剣を振るう。しかしミズキはその目前で急停止し剣を躱してやや左後方に後退気味に動く。それにつられてゴブリンソルジャーたちの一部がミツキに向かって剣を振りながら前進していった。
戦術の想定通りミツキは左側のソルジャーたちを自分をターゲットにさせることに成功。が、その数は3体だった。
最善はミツキが4体引き留めることだったがそれより1体少なくなり、残る3体は当然ユニス達に向かう。
(3体来たか。だが想定内だ!)
このくらいのズレは予想して対応しなければいけない。ミツキに続いて前進していたユニスは3体を相手取るためさらに加速する。
まず3体のうち前に出ていた一番左の個体に向け、流れるように剣をひらめかせる。
「ギギャッ!」
戦闘のゴブリンソルジャーは一瞬のうちに右わき腹から左肩にかけて切り裂かれて血しぶきをあげて倒れる。ユニスの持つジャイアントキラーはさすがの切れ味だ。筋力UPの効果も相まって、ゴブリンソルジャーに一振りで致命傷を負わせた。
「ギッ!」
残り2体はほぼ同時に大上段に剣を振りかぶってユニスに襲い掛かってきた。距離が近いためユニスは剣を自由に振ることが出来ない。仕方なくユニスは1体の剣を受け止めてもう1体の攻撃をかわす。
そのまま1対2の小競り合いが始まるかと思われたが、ユニスが躱した1体が視線を後ろに向け、プリシラを襲う動きを見せた。
「チッ!まずい。」
パーティで一番弱点でもあるプリシラを守ることがこの戦術のキモだ。プリシラに魔物を向かわせることは何としても避けたい。しかしユニスは1体と競り合っているため、倒すには数秒はかかる。その数秒で魔物はプリシラに接近できてしまう。
「くっ、どけ!」
やや焦ったユニスは鍔迫り合いからゴブリンソルジャーを強引に押しのけ、そのまま袈裟切りに剣を振るった。ゴブリンソルジャーは剣を受け止めようとしたが、ユニスの気迫の乗ったジャイアントキラーは
ガキンッ!
という金属音と共にゴブリンソルジャーの持つ剣を弾き飛ばし、その勢いのまま首筋に剣身をめり込ませていた。
「ギッ・・・」
首から血を噴出したゴブリンソルジャーは、そのままゆっくり崩れ落ちるように倒れて行った。
目前の敵を倒したユニスがすぐにプリシラに振り向く。
と同時にプリシラの声が響いた。
「ファイヤーボール!」
ユニスの視界には、プリシラの放ったファイヤーボールがゴブリンソルジャーに直撃する光景が映ったのだった。
「ギアッ!」
プリシラの火球を受けて動きを止めるゴブリンソルジャー。このわずかな躊躇を逃すユニスではなかった。
一瞬でゴブリンソルジャーの背後に移動し、間髪入れず背中から突き刺した剣は体を貫く。
「ギ・・・」
ユニスが剣を抜くとそのままゴブリンソルジャーは倒れ、動かなくなった。
ユニスはプリシラの無事を確認し一瞬だけ安心した顔をしたが、すぐに顔を引き締めて振り返った。
まだ戦闘は終わっていない。半数はミツキが受け持ったままなのだ。やや手間取った分ミツキの負担が増えている。ユニスは振り向きざまダッシュでもう一方の戦場に駆けた。
ミツキは3体のゴブリンソルジャー相手に奮闘していた。少し間違えば大けがをするようなゴブリンソルジャーの攻撃を巧みに躱し続けている。パッと見た限りだがミツキに怪我は全くないようだ。
(さすが特殊能力だな。)と感心しつつ戦いに参戦したユニスは、近寄りざま1体を後ろから首を切り飛ばす。
「「ギアッ!?」」
ユニスの脅威に気づいた2体は狼狽したように左右を見てどちらと対峙するかを考えているようだったが、そのような隙を戦闘中に見せてはもはや結末は決まったようなものだった。
結局残りの2体もわずかな戦闘ののちにユニスが切り伏せ、6対3の戦闘が終了した。
「スマン、少し遅くなっちまった。」
周囲を確認したユニスが剣を収めながらミツキに詫びるが、ミツキの方も申し訳なさそうな顔で首を振った。
「いや、4体引き受ける予定が3体しか釣れなかったのは俺のミスだ。謝るのは俺の方さ。」
「しかし3体の回避でも危なげなさそうだった。回避の能力はやはり優秀だな。」
「へへ、まだ余裕があったぜ。4体でもある程度は大丈夫だな。」
「そりゃ心強いな。」
ユニスが能力を誉め、ミツキは嬉しそうな笑顔を返す。その顔には充実感があふれていた。
「ユニス、ミツキ、お疲れ様です。」
プリシラが2人に駆けよって声をかける。
「プリシラ、ちょっと危なくなってすまなかったな。」
「いえ、私もあれくらいは慣れてますから。」
プリシラはこれまで低いレベルで高ランク魔物との戦闘に参加することが常だったため、多少の危険では動じない。今回も近づこうとした魔物に冷静に魔法を放つことが出来ていた。
「あのファイヤーボールは良いな。ゴブリンソルジャーの動きを止めていたし。」
ユニスがそうプリシラを誉める。プリシラの攻撃魔法は本人のレベル同様にまだ威力が低く、殺傷能力はほとんどない。しかし今回のように牽制に使って時間を稼ぐことはできるだろう。
プリシラの魔法での牽制も考えに入れて戦えれば、多数の敵にも対処が可能になりそうだ。
6体の魔物と戦ったのは初めてだが、その割には上手くいった。こういった戦いを繰り返し経験すればもっとうまく対処できるようになるだろう。
「さて、次の獲物・・・と行きたいが、切りもいいし時間もいい感じだ。今日はこれで戻るぜ。」
魔石を集めた後ユニスはそう宣言して、3人は帰途についた。
ユニスだけでなくプリシラもミツキも新戦術に手ごたえを感じたようで、3人の表情は明るかった。
◇◇
「ん?なんだか騒がしいな。」
「何でしょう?」
3人が中級ダンジョンから戻った時、ギルド内がいつもと違いややざわついていた。
騒ぎの中心を探すと、掲示板に冒険者が集まっている。どうも掲示板に何かがあるようだ。
3人が人をかきわけながら掲示板が見える位置に近づくと、そこには新たな連絡事項が貼り出されていた。
「あ、これは・・・」
掲示板に貼りだされた紙の大見出しにはこう書かれていた。
『中級ダンジョン13階層に”ポイズンビー”が復活。』
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