第17話 能力を生かせる場所
それから3人はダンジョンを進み数回の戦闘を行った。その間ミツキは何度か戦闘と守備をこなしており、何ら問題は見られなかった。
そしてユニスは、ミツキの動きを観察しながら自らのアイデアをまとめることができた。
戦闘の合間、3人がしばらく小休止を取るため腰を下ろしている時、ユニスが切り出した。
「2人とも、話がある。」
ユニスの言葉に、くつろいだ雰囲気を見せていた2人が姿勢を正して振り向いた。
「なんでしょう。」
「ミツキのことだ。」
ユニスは言葉を区切って2人を見た。
プリシラもミツキもユニスのまじめな口調に、休憩で緩んだ気を引き締め真剣な表情になる。
「ミツキの戦い方を見て俺はいろいろ考えてたんだ。どうすればミツキの能力をパーティに生かすことができるだろうと。そしてようやく俺なりのアイデアが出来た。
結論から言おう。ミツキには前衛をやってもらいたい。」
「「前衛!?」」
ユニスの発言に、プリシラもミツキも驚きの表情を浮かべていた。
「前衛って、剣士や騎士とかのポジションですよね。」
「そうだな。」
「ミツキさんはハンター系のシーフ職ですよ。筋力も体力も防御も低いんですよ。」
「そうだな。」
「ならどうして・・・。」
プリシラが執拗にユニスに質問してくる。それもそのはず。力も防御力も低いハンター系の職業は前衛には向かないというのが常識だ。そのためミツキはこれまで戦闘、おそらく他のパーティでも常識的に後衛の守備に回されていた。
しかしユニスの視点は常識とは異なっていた。
「ミツキの能力『回避』は守備には向かない。むしろ前衛の立ち位置でこそ生きてくる。」
ユニスはミツキの戦闘を見て、『回避の能力は前衛戦闘職の能力なのではないか』と思い至っていた。
ユニスの提案を戸惑いながらも思案するミツキにユニスは質問する。
「ミツキ、このパーティの戦闘での弱点は何だと思う?」
「弱点、か。」
ミツキは少しの間考え、そして答える。
「攻撃魔法が少ない。あとは、人数が少ないから集団で襲われると後衛が危険なことか。」
「そうだな、俺も同じ意見だ。
攻撃魔法が少ないことは今は仕方がない。それには戦う階層、魔物を選ぶことで対処できるだろう。だから今必要なことは、多数で襲われたときのこと。一番レベルが低いプリシラに危険が及ぶのを防ぐことだ。」
「それならなぜ俺を守備から外すんだ。」
プリシラを守る必要があるのに守備を減らす、ミツキが挙げた矛盾に対しユニスは少しだけ口元に笑みを浮かべて言った。
「それが一番プリシラの危険が少ないと思うからだ。」
ユニスは自分の考えを説明する。
「今まで通り、俺、ミツキ、プリシラの順での隊形だとしよう。それで集団、例えば6体くらいで襲撃を受けた場合を考えてみるんだ。
いくら俺でも多数を一人で受け持つのはできない。一時的には2体か、できてせいぜい3体を相手にできるくらいだ。そうすると残りの3体が後ろに回り込むことになる。
もし3体がミツキとプリシラに向かった場合、ミツキはプリシラを怪我無く守り切ることができるか?」
「3体か。相手どることは可能だが、プリシラが近くにいるから魔物のターゲットがそちらに向かうかもしれない。そうなると怪我無くというのは難しいな。」
ミツキが渋い顔をして首を振る。守りながらの戦いはソロで戦うより難易度が高い。
「そうだろうな。もっともプリシラには分与があるから怪我の程度は抑えられるが、それでもケガをしないに越したことは無い。」
ユニスは一呼吸おいて再び説明を始める。
「で俺のアイデアは、ミツキ、俺、プリシラの順だ。敵の集団が現れた時には、まずミツキが前進して魔物をできるだけ引き付ける。俺はそのあとから進み、漏れた魔物と対峙する。
ミツキは引きつけた魔物と戦う必要はない。避けて躱して、とにかく時間を稼ぐんだ。その間に俺は自分担当の魔物を倒してミツキの救援に向かう。そして残りの魔物を2人で倒す。」
ユニスの考えた戦法は、ミツキをタンクの役割のように前に配置して攻撃を分散させ、各個撃破していくというもの。ミツキはいわば『避けタンク』ということになる。
「この戦法はこれまでよりミツキの負担が大きい。ミツキには申し訳なく思うが、それでもこのやり方が一番安定するんじゃないかと俺は思う。
みんなの意見はどうだ?」
プリシラとミツキは、しばし考えこんでユニスの説明を吟味していた。
そして最初に口を開いたのはミツキだった。
「なるどほな。プリシラが近くにいないから俺は回避だけに専念すればいい。それなら3、4体は足止めできるな。面白い。後ろで守るよりもやりがいがあるぜ。」
自分の回避能力を生かせるこの案にミツキはむしろ積極的に賛成のようだ。
「私はミツキさんが賛成ならばそれでよいと思います。」
プリシラも条件付きでOKを出す。
「よし、ならばこの隊列でしばらく戦っていこうか。休憩も終了だ。」
新たなアイデアの戦い方を試してみたい。3人はそれぞれ意気込んだ面持ちで立ち上がった。
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