第19話 ポイズンビー

「そうか、ポイズンビーが復活か。もうそんな時期なんだな。」


 掲示板の内容を見てユニスが納得したようにつぶやく。プリシラも同じような感想の面持ちだ。


「ポイズンビーってなんだ?」


 3人の中でミツキだけが分かっていないようでユニスとプリシラに尋ねてきた。


「そうか、ミツキは最近ここに来たばかりで知らないんだな。」

「そうですね。じゃあポイズンビーについて教えますね。」


 プリシラがミツキに簡単に説明していく。


 ポイズンビーはバランの中級ダンジョンの森林エリアに生息する魔物だ。名前の通り蜂の魔物で、その種類には女王蜂とその兵隊蜂がおり、総称してポイズンビーと呼んでいる。

 ポイズンビーは討伐されても1年おきくらいに定期的に復活する。いわば『中ボス』のような存在としてバランでは知られているのだ。


「ふーん。でも中級ダンジョンは冒険者の人数も多いからすぐに討伐されるんだろ?」

「それが結構厄介で、なかなか討伐されないらしいんです。」

「厄介?」

「どうもその毒に特徴があるようですが、私も詳しくは知りません。」

「俺もプリシラと同じだ。今まで初級が主戦場だったからな。」


 ユニスもプリシラもポイズンビーの話は噂程度には聞いていたのだが、中級ダンジョンの魔物の為直接戦うことがなく、また常時いる魔物でもなかったため、あまり意識していなかったのだ。


「でもよ、復活したのが13階だっていうから俺たちの活動範囲にかぶっちまってるぜ。」

「その通りだ。これは対策する必要があるな。」


 ユニスは少し考えて、2人に向かって言った。


「よし、明日は午前中に図書室でポイズンビーの情報を調べてからみんなで対策を話し合うことにしよう。早く連携を深めたかったところだが仕方がない。」


 ユニスの言葉に2人は頷く。

 その日は魔石を換金した後に解散となり、明日朝にギルドに集まることしたのだった。


◇◇


 翌日、3人は図書室でポイズンビーの情報を集めた。その情報は大体以下の通り。


・ポイズンビー:全体としてのランクはLV30相当とされている。兵隊蜂単体ではLV15 。女王蜂は戦わないためレベルの規定なし。

・女王蜂は体長3mほど。兵隊蜂は体長1mほど。

・ポイズンビーは巣を作っており、中には女王蜂が1匹いる。その周りを兵隊蜂が30体程常時守っている

・他に兵隊蜂が5体一組で、4組ほどがダンジョン内を徘徊している。目的は巡視(?)のため、および蜜集めのため。

・冒険者の被害は、主にこの徘徊中の兵隊蜂との遭遇によるものがほとんど。

・兵隊蜂のメイン武器は毒針。敵に向けておしりから毒針を飛ばして毒を与える。1体につき10連射まで可能。10連射後は3分間毒針攻撃をしてこない。(おそらく体内で毒針を再び作っている。その時間が3分)

・蜂の毒は神経系の毒。致死性はほとんどないが、毒を受けると徐々に動きが鈍くなるため、その間に直接攻撃を受けると危険。

・兵隊蜂は手が鎌のようになっていて、近接戦闘ではこれを使う。

・兵隊蜂は倒してもいつの間にか個体数が戻っている。これは女王蜂が産んだ卵から兵隊蜂が孵るため。ただし兵隊蜂は際限なく増えることは無く一定数を保っている。

・女王蜂はほとんど動かない。攻撃手段もない。そのため兵隊蜂を駆逐できれば女王蜂も簡単に討伐できる。



 ポイズンビーの情報を集めたのち、3人はそのまま図書室内でテーブルを囲んで対応策を話し合った。


「こうしてみると、注意すべきは徘徊の兵隊蜂との遭遇戦ということになるか。」

「そのようですね。巣には近づかなければ襲われないはずです。」


 ユニスの言葉にプリシラも同意する。情報の中にもあったが、徘徊中の蜂との遭遇が最も冒険者の被害が大きい。パーティとしてはここを何とかしないといけない。


「毒はキュアとかでは対処できないのか?」


 ミツキの疑問にプリシラが答える。


「これは知り合いの魔法使いの方から聞いたんですが、どうやら神経系の毒は低レベルのキュアでは効かないらしいんです。最低LV8のキュアが必要だとか。」

「LV8!?相当高レベルの魔法使いじゃないと習得してないだろ。」

「はい。だからそんな魔法使いの人はなかなかいなくて、居てもすでに上級ダンジョンに行くようなレベルになっているので、中級ダンジョンでは旨味がなく断られるそうです。」

「キュアポーションはないのか?」

「あるにはあるらしいのですが、原材料が問題で常備されていないそうです。」

「原材料?」

「ポイズンビーの毒のポーションは、ポイズンビーの毒から作られるそうです。」

「「・・・あー」」


 プリシラの話を聞いて、ユニスとミツキは納得とあきらめとが混じったような言葉をつぶやいた。

 キュアポーションはそれ自体の毒から成分を抽出、精製して作られる。そして毒は兵隊蜂の毒針を集めて抽出することになるわけだが、この毒針集めが問題だ。最初のうちはポーションがない状態で集める必要があるため、冒険者たちにとって危険が大きく、結果なかなか集まりづらいのだ。

 冒険者が運よく兵隊蜂との戦いに勝った時にようやく毒針を拾うことが出来る。ちなみに蜂を倒しても毒針は消えない。蜂から射出された針は、蜂の体を離れて以降は体の一部ではなく単なる物質と判断されているようだ。


「前に作ったポーションの余りとかは無いのか?」


 ミツキが尋ねるが、これにもプリシラが首を振る。


「そのポーションは3か月くらいしか効果が持たないので、次回の復活の時に持ち越すことはできないようです。」


 結局ポイズンビーを討伐するためには、キュアポーションが十分集まってから、もしくは運よくLV8のキュアを持つ魔法使いが討伐に協力してくれるかである。これまでの討伐も、その2つのパターンのどちらかだったらしい。


「女王蜂の討伐は置いておいて、俺たちの問題は兵隊蜂に遭遇した時にどうするか、だが・・・」


 そう口に出してはみたが、3人とも有効な手段が思いつかない。3人の空気が重くなった。

 毒針のような飛び道具は、ミツキの回避であっても完全に避けきることは難しい。またプリシラに攻撃が届きやすいのも難点だ。

 5体くらいならユニスのステータスで強引に倒し切ることも可能かもしれないが、毒の不確定要素が大きいためそんなリスクは取れない。


「・・・やはりこの方法しかないか。」


 しばしの沈黙ののち、ユニスが口を開き、プリシラとミツキも顔をあげて頷いた。


「そうだな。」

「仕方ないですね。」

「よし、じゃあ決まりだ。」


 ユニスが2人を見て、それからゆっくりと告げた。


「兵隊蜂と遭遇した時のパーティ方針は、『逃げる』だ。」

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