第20話 戦利品、そして転移
「ユニスさーん!!」
ユニスが聞こえてきた声に振り返ると、プリシラがこっちに向かって走ってきていた。しかしその足どりはどこかぎこちなく足もともおぼつかない。おそらくユニスと同様しばらく動かなかったせいで体が凝り固まって思うように動かせないのだろう。それでも懸命に駆けてきていた。
「プリシラ、勝ったぞ。ボスを倒した・・・うわっ。」
笑顔でプリシラに答えたユニスだったが、プリシラが走ってきた勢いそのままにユニスに抱きついてきたのだった。
「ユニスさん、すごいです。あのサイクロプスを怪我も無く倒せるなんて、本当にすごいです。」
「そ、それは分かったから離れろよプリシラ。」
「いやです。離れません。ずーっと一緒に狭いところにいた仲じゃないですか。」
「それが抱きつく理由になるか!?」
「体を密着しながら、お互いの過去を語り合ったんですよ。いいじゃないですかそれくらい。」
「よくねえ!」
ユニスは無理やりにプリシラを引きはがすと、少し距離を取って身構えた。
「もう助かったんだからくっつく必要はねえだろ。」
「むぅ、ケチです。」
プリシラはそう文句を言ってむくれた。
ユニスはプリシラからやたら好意を向けてこられている。いまだ過去のトラウマを引きずっているユニスには、どう接したらいいかわからずに戸惑うばかりだった。
「そんなことより、ボスを倒してから魔法陣が出るまであまり時間が無いぞ。戦利品を探すぞ。」
「は、そうでした。」
ボスを倒せばボス部屋に転移の魔法陣が現れて入口へと運んでくれる。その前にドロップ品を探してゲットしておかねばならない。
魔石は、サイクロプスが倒れた場所で見つかった。
「これは・・・今まで見たことがないくらい大きいな。」
「きれいな色・・・。」
通常ボスの魔石よりも2回りほども大きな、青みがかった魔石だった。一目で価値が高いと分かる。
ユニスは魔石をプリシラに預け、自身は落ちていた大剣を拾い上げた。
「これが無きゃ危なかったかもな。」
ユニスは大剣を背負うように固定した。
「もう何も落ちてないようですね。」
「ドロップ品は無しか。残念だ。」
これまでのボス戦では剣や防具、アイテムなど何かがドロップしていた。だが今回はイレギュラーなためか何もドロップしていないようだった。
「仕方ない。生きてるだけでも儲けものだ。このまま帰ろう。」
ユニスとプリシラは、すでに輝き始めていた魔法陣に向かって歩いて行った。
「あ、ユニスさん。あれは何でしょう?」
プリシラが不思議そうな声をあげて前方を指さした。
魔法陣は部屋の1番奥の1段高くなった場所に発現しているのだが、その手前に何かがあるのが見える。
2人が近づいていくにつれ、それが何かわかった。
「宝箱・・・ですよね。」
プリシラが言った通り、ユニスにも宝箱に見えた。
「あんなの今までなかったぞ。もしかしてあれがドロップ品ってことなのか・」
いままでボスを倒しても宝箱が現れたことは無かった。今回はイレギュラー中のイレギュラーらしい。
「早速開けてみよう。」
「もしかして、罠なんてことはないですよね。」
「さすがにダンジョンもそこまで意地悪じゃないだろうよ。」
ユニスは「これは罠じゃない」と理由なく確信していた。
ユニスが箱を開けると、そこには一振りの剣があった。
「これは・・・・」
その剣の輝きにユニスもプリシラも目を奪われた。まだ初心者で、高価なものをろくに見たことが無い二人でも、それが非常に価値ある物だと分かるほどだった。
ユニスは剣を振ってみた。やや重く、厚みと大きさがあり、それでいてすごく切れそうな感じがする。そしてユニスの手にもしっくりくる、まるでユニスの為にあつらえたような一品だった。
「この剣はユニスさんの物ですね。」
「いいのか?」
「ユニスさんが倒したんですよ。ユニスさんのものに決まってます。それに私は剣を使うわけじゃないですし。」
「そうか・・・。じゃあ遠慮なくもらっておく。」
ユニスは剣を手に入れて心が浮き立つように感じた。なんだか「長い間探していたものを手に入れた」かのような感覚で、じわじわと喜びがこみあげてきた。
宝箱の中には宝石と金貨もいくらか入っていた。これはおまけのようなものだろう。2人は手分けして宝箱の中のものをすべて持ち出した。
「金持ちになっちゃいましたね。」
「ああ」
通常のボスを討伐するよりはるかに高価なものなのは間違いない。しばらく生活には不自由しないどころか、いろいろなものも買えるだろう。
「さて、貰う物も貰ったし、魔法陣で帰るか。」
「はい。」
2人が魔法陣に足を踏み入れると魔法陣は輝きを増し、2人を包み込んだ。
光に包まれている間に、プリシラはしみじみと言った。
「なんだかもう何日もボス部屋に居た気がしますね。」
「・・・同感だ。」
実際には半日くらいしか経っていないのだが、追い詰められた心理状態の感覚では、もっと長い時間が経っていたかのように思われたのだ。
そんなノスタルジーにも似た感慨と共に、2人はボス部屋から消えて行った。
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