第19話 ボス撃破
ユニスがボス部屋に戻ると同時に、サイクロプスは待っていたかのようにその一つ目でユニスをぎろりとにらみ、ゆっくりと立ち上がった。
そして、待ちかねた、とでも言うかのように猛々しい咆哮を浴びせてきた。
「グオオォォォォォ!」
相手の心までおびえさせるほどの咆哮。
だがその咆哮を浴びても、ユニスは恐怖に駆られたりはしなかった。それどころか余裕たっぷりににやりと笑って言った。
「すまない、待たせちまったな。準備に手間取っちまった。」
その言葉が終わらないうちにサイクロプスはユニスに向かって突進してきた。
それをユニスは軽いステップで避けた。サイクロプスは通り過ぎて急停止し、周囲を見渡してようやくユニスを見つけた。
「おいおい、そんなせっかちじゃ、女にもてないぞ。」
ユニスが軽口をたたく。サイクロプスは避けたユニスを信じられないような表情で見ていたが、すぐさまさらに追撃の棍棒を振り回してきた。
「ちょっと準備運動をしたいから付き合ってくれよな。」
ほとんど動かない体勢で長時間とどまっていたユニスは、体がだいぶ凝り固まっていた。それと急激なレベルアップによって、体の感覚と実際の動きとがうまく整合しない感覚もあった。
そのためユニスは、まずサイクロプスの攻撃をよけ続けることにより体をほぐしながら、かつレベルアップ後の体の動きに馴れるという『準備運動』をすることにしたのだ。
ただ準備運動とは言っても、まともに受ければ一撃で致命傷を負うであろう怪力のサイクロプスの攻撃をかわすのは恐怖を伴う。それでもユニスは相手の攻撃に神経を集中させながら、確実に躱していく。そしてかわしながらある方向へと移動して行った。
(やっぱりサイクロプスの力はすげえ。まともに食らうとそれだけで死ぬかもな。しかしスピードはやはり遅い。注意すれば躱せる。)
しばらく攻撃をかわすだけだったユニスだが、あるタイミングでサイクロプスから大きく距離を取った。
「だいぶほぐれたし、スピードの感覚もだいぶ掴めた。今度はこっちから行くぞ。」
そう言ってユニスは自分の足もとにある物を手に取り、そして構えた。
それは大剣だった。ボス部屋に入って最初に戦ったとき、バーゼルが落としたまま逃げていった、その大剣だ。
実はユニスはボスと対峙した時に瞬時に周囲を確認してこの大剣のある位置を把握していたのだ。そしてうまく逃げながらも剣を得るタイミングを見計らっていたのだ。
「うん、やっぱ振りづらいな。俺向きの装備じゃない。」
剣を素振りしたユニスはそう感想を漏らしたが、現時点ではボス部屋に残された貴重な武器だ。選り好みはしていられない。
「グオオォォォ!」
剣を手に持ったユニスを見たサイクロプスは、再度気合を入れてユニスに向かって来た。
ユニスは剣を構えたままサイクロプスの攻撃を待ち、サイクロプスが棍棒を振り下ろしてきた瞬間に体を右に避け、目の前にあるサイクロプスの右腕に大剣を叩きつけた。
「グギャアァァ」
サイクロプスの叫びと共に、切られた右腕から血しぶきが舞う。
「ちぃっ。やっぱり腕を斬るまでは出来ないか。」
ユニスが不満そうにつぶやく。彼の剣は腕の骨まで達する傷をつけていたのだが、切り飛ばすには至らなかった。ユニスのステータスと言うよりも、経験や馴れ、剣技などもろもろが不足しているのだろう。
だがサイクロプスから見ればかなりの痛手だったらしく、棍棒を左手に持ち替え、右腕はだらりと下がっていた。
「時間はかかるが確実な方法で行くしかないな。」
ユニスはサイクロプスを倒す方法を決め、そして自ら懐に飛び込んで行った。
それからユニスとサイクロプスの戦いは一方的だった。
ユニスはサイクロプスの4本の手足に狙いを定め、慎重に、着実に攻撃を加えていった。対するサイクロプスの攻撃は、力は強いがユニスには全く当たらなかった。
体力と耐久性に優れるサイクロプスだが、徐々に傷つけられたためにもはや左足て右手はほとんど動かなくなってきており、残る左手右足も傷により血だらけになっていた。さしものサイクロプスも動きが鈍くなり、攻撃を受ける回数も増えてきた。
しかし、サイクロプスはやはりタフであり、あれだけ攻撃を受けてもまだそう簡単に倒れそうにない。
動きが鈍ったサイクロプスを見てそろそろ頃合いと感じたユニスは勝負に出た。
一瞬でサイクロプスの間近まで飛び込んだユニスは、サイクロプスの攻撃をかわしながら大剣を右足に力いっぱいたたきつけた。
「グギャアァァ」
ユニスの攻撃により右足がついに許容値を超え、両足に力が入らなくなったサイクロプスはついに両ひざをついた。
その瞬間、ユニスは躍り上がってサイクロプスの腕を足掛かりにして駆け上がり、その顔めがけて跳躍した。
狙うはサイクロプスの弱点である『目』
最初から目を攻撃しても、避けられたり防御されたりしてそこには届かない。ユニスは徐々に弱らせて反応できないようにするための攻撃を加えていたのだ。
ユニスの攻撃により多大なダメージを負い動きが鈍くなっていたサイクロプスは、ユニスの攻撃を避けようとしたが、すでにその力は削り取られていた。
「これで終わりだ!」
ザシッ!
ユニスの大剣は、あやまたずサイクロプスの一つ目の真ん中に突きささった。
「グ・・・グギ、アア・・・ァァ」
ユニスは大剣をそのままにすぐさま地面に降りて距離をとる。
サイクロプスは目に刺さった大剣を抜こうとその柄をつかもうと手を伸ばしたが、その手は途中で止まり、そして力なく垂れたかと思うと、サイクロプスはズシンと音を立てて地面に倒れこんだ。
呼吸を整えながら、横たわるサイクロプスを見つめるユニス。
その目の前で、サイクロプスは光を放ちながら体が次第に透けていき、やがて完全に消え去っていった。
ユニスはフゥ、と息を吐き、そしてつぶやくように言った。
「・・・勝った。」
ユニスのその言葉には、3年間の様々な思いが詰まっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます