第16話 プリシラの能力
「・・・それから俺は巡り巡って、このバランにたどり着いたってわけだ。この街、というかこの塔は俺のようなレベル1でも使いようによっては役に立つ。それにこの街にはいろんな情報も集まるから、そのうちレベルを上げるための有効な情報も聞けるかもしれないしな。」
ボス部屋の狭く暗い隙間の中で昔話を終えたユニスは、はっと気づいた。
(しゃべりすぎた!)
最初はここまで過去の話をするつもりじゃなかった。簡単にここに来た経緯を話すだけのつもりだった。
だが、プリシラの過去にほだされてしまったのか、さらにこのいつ終わるとも知れないボス部屋の不安もあったためか、ついつい昔話を掘り下げて話してしまっていた。
それに本来のユニスはリーダーの資質がある明るいキャラであり、しゃべりが苦手な訳ではなかったこともあり、気付けば自分の恥ずかしい過去を全部話していた。
「な、なあ、この話は・・・。」
慌てて弁解しながらプリシラを見たユニスは、ぎょっとした。
暗がりの中でプリシラが泣きながらこちらを凝視していたのだ。
「ど、どうしたんだお前、涙を流して。」
「どうしたって、ユニスさんがかわいそうだから泣いてるんですよ!」
「お、おお、そうか・・・。」
プリシラが涙にぬれた瞳のまま、少し寂しそうに微笑んで言った。
「ユニスさん、そんな過去があったなんて。それじゃあ私を冷たくあしらってたのも仕方ないですよね。」
「・・・すまなかったな。」
「それにしても、仲間だったあの2人は許せませんね。、とくにエリザって女、私が出会ったらファイヤーボールをぶつけてやりますよ!」
「よせよ。返り討ちにされるぞ。」
ユニスはプリシラの泣きながら怒る姿に呆れていた。
プリシラが自分の話にここまで感情移入してくれるのは、嬉しいような恥ずかしいような複雑な気持ちだった。
「ユニスさんは彼らの事恨んでますか?」
「ん?・・・そりゃ最初のころは恨んでたさ。だが、今は恨んでない・・・ていうか、どうでもよくなった。」
「ホントですか。私なら一生恨んじゃいますけど。」
「顔に似合わず過激だな。・・・そうだな、もし俺が逆の立場で、仲間がレベル1から全く上がらなかったなら、あいつらと同じ対応をしたかもしれない。そう考えたら、あいつらがやったことは俺としては許せないけど、納得できないわけじゃないって思ってな。」
もしユニスの仲間が足手まといになったら、実際に行動するかは別としても、パーティを外れてほしいと内心は思ったかもしれない。自分でもそうなんだったら、いつまでも被害者のように彼らの事を恨む訳にはいかない。それに今更恨んでも無駄な事だ、そう思うことにしていた。
「へー、大人ですね。本当に私と同い年ですか?」
「お前が歳をサバ読んでなければな。」
「あ、ヒドい!私そんなに幼くないですよ。」
プリシラがプリプリと怒り、その様子を見てユニスはこれまで味わったことのない穏やかな気持ちになっていた。
(こんな状況で、こんな他愛もない会話が楽しいとはな。)
ユニスはこの不思議な状況を、意外と心地いいと感じていた。
「ところで、ちょっと確認したいんですが。」
プリシラが改まってユニスに話しかけてきた。
「なんだ?」
「ユニスさんの『箱』には経験値が入っているんですよね。」
「そうだ。」
「今はどのくらい貯まってますか?」
「見たいのか?」
ユニスは自分のギルドカードをタップして経験値を表示した。
「えーっと、いち、じゅう、ひゃく、せん・・・・・・800万、ですか?」
「ああ、それくらい貯まっているぞ。」
ユニスのギルドカードの特殊能力の項目には
『箱』LV1: 経験値(8032511)』
と表示されていた。
「800万が多いかどうかわかりませんが、これくらいが初心者が3年間活動したらもらえる経験値なんですね。」
「違うと思うぞ。普通はもっと少ない。」
「え?」
「この箱の中の経験値は1週間で1/20増えるんだ。だから箱の中の経験値は普通に得るよりはるかに多い。」
ユニスはこの3年間箱の中を見続けていて、1週間の最終日の日が変わるときに、中の経験値が1/20ずつ増えることを確認していた。
「でもたった1/20ですよ。増えたとしてもそれほど変わらないと思いますけど。」
「俺もそう思ってたんだがな、最近やたら増えてるような気がして、気になって計算してみたことがあるんだ。普通と比べてどのくらい増えているんだろうって。」
ユニスは、1日に経験値が常に一定量入ってくると仮定して、経験値の増加がどのくらいかを計算してみたことがある。
計算機も無い時代、ユニスはかなり長い時間をかけて計算をした。
その結果。
「普通の冒険者と比べて、1年で4~5倍、2年で30倍、3年になると280倍くらいになっている。」
「280倍!?それってまさかとんでもない数字じゃ・・・」
「ああ、そうだろうな。」
3年間貯め込んだ経験値は週ごとに増え続け、計算上では通常で獲得する場合の280倍になっていた。もちろん他の冒険者はレベルアップして強くなり、強い魔物を倒すことにより入ってくる経験値も多くなるため単純比較はできないのだが、それでも桁違いに増えているのは間違いない。
「じゃあ、もしこの経験値を取り出すことが出来たら、ユニスさんはどのくらいのレベルになると思いますか?」
「レベルと経験値の関係がわからないんで確実じゃないが、予想では多分レベル25以上は間違いないだろう。」
「25以上!」
プリシラは驚いてユニスを見つめた。
冒険者レベルを1つ上げるために必要な経験値は、レベルが高くなればなるほど多く必要となる。
ユニスの見立てでは、箱の中の経験値は20年くらい冒険者を続けたのと同等の数値ではないかと推測していた。
「じゃあ、もしユニスさんがLV25になったとしたら、あのサイクロプスに勝てますか?」
プリシラの質問に、ユニスは少しの間顎に手を当てて考えたが、やがてプリシラに顔を向けて言った。
「サイクロプスと3人組の戦いを見ていた限りだと、あのサイクロプスはパワーと耐久力は凄いが、スピードが遅く魔法も使えない。俺とアイツが同じレベルなら勝つ自信がある。」
「本当ですか!」
「ああ。経験値を取り出せささえ出来ればサイクロプスを倒せる。ここから出られるんだ。」
ユニスは自信に満ちた表情をプリシラに向けたが、すぐに表情を落としてプリシラから視線を外した。
「ま、所詮タラレバの話だ。机上の空論ってやつだな。」
そう自嘲したようにユニスはつぶやいた。
しかしユニスの話を聞いたプリシラは、何かを決心したかのように背を伸ばし、しっかりとユニスを見つめた。
「ユニスさん、聞いてください。私の特殊能力の『分与』ですが、実は今まで誰にも言わずに隠していた能力があるんです。」
急に改まって話をし出したプリシラを、ユニスは戸惑いと興味の半々の目で見ていた。
プリシラはゆっくりと、しかしはっきりと聞こえるように言葉を続けた。そしてその言葉は、ユニスを瞠目させるのには十分すぎる内容だった。
「私の特殊能力には、私のレベルを人に分与することが出来る能力もあります。私は、ユニスさんのレベルを上げることが出来るんです。」
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