第24話 これからも
その後、ギルドでは朝にもかかわらず大宴会が開かれた。
宴会の理由はイレギュラーボスの討伐。どうやらイレギュラーボスは倒されたという記録がないらしく、バランの塔史上初めての事と認定された。
宴会の主賓はもちろんユニスとプリシラだ。2人は主賓席に座って、次から次へとくる冒険者たちの質問攻めや乾杯攻めにあっている。
「どうやってレベルを上げたんだよ。」
質問の大半はこれだ。ユニスは辟易しつつも自分の能力に関することの明言は避けた。ただ、
『3年間は弓をずっと引き絞り続けた状態で、今回手が離れて矢が一気に解き放たれた感じだ。』
と、たとえ話として語った。
冒険者としては能力の秘匿は当然なのでそこまでしつこくは聞かれなかった。なにしろ宴会だ。主眼は目の前の酒と食べ物なのだ。
彼らはとにかく飲んで、騒いで、食べて、思いのままに振舞っていた。
ところでバーゼルはというと、すでにあたりにはいなかった。ニセの帰還玉を渡すという行為は相手を殺そうとするのと同じのためギルドとしては重い処分をするはずだ。おそらく今はギルドの奥の牢屋の中だろう。彼の行く末はすでにユニスは興味がない。
彼の仲間のイゴとスコージオも姿が見えない。彼らが帰還玉のことを知っていたかどうかユニスは知らないが、この2人のこともすでにどうでもいいことだった。
宴会の頃を見てユニスとプリシラはギルドを後にした。なにせボス戦後にそのままギルドに直行したのだ。徹夜していたこともあり、2人ともとにかく眠かったためだ。徹夜でボスを倒したので疲れている、と言えば冒険者たちも無理に引き留めることはできなかったようで、渋々ながらも送り出してくれた。
「宿まで送って行ってやるよ。」
ユニスはそう言って前を歩き、プリシラは後ろについて行った。
ユニスはプリシラをちらりと振り返った。プリシラは恥ずかしそうにユニスの後ろをついてくる。それを見てユニスは首を傾げた。
ボス部屋でのプリシラは積極的にユニスに話しかけ、励まし、行動していた。
それがボス部屋を出てからはどうだ。ほとんどしゃべらず、おどおどしてうつむいていて、元のプリシラに戻っているじゃないか。
そんなに性格って急に変わるものなのか?死が迫った状況でないと出てこない性格なのだろうか。
ユニスは不思議に思ったが、疲れていることもあり深く考えることはやめた。
「あ、あの。」
しばらく無言で歩いた後、プリシラがようやく口を開いた。
「なんだ?」
「あの、今日はボスを倒してくれてありがとうございました。」
プリシラは頭を下げる。ユニスはそれを見て苦い顔をして言った。
「何言ってんだ。俺とお前は一緒に戦ったんだ。感謝なんていらねえよ。」
どうやらプリシラはユニスに助けてもらったと思っているようだ。そんなことはない、自分がプリシラに助けてもらったんだとユニスは思っていたし、ギルドでもそうはっきりと言った。だがプリシラとユニスの思いはお互いが助けてもらったと思っているようだった。
それから、またプリシラは黙ってしまい、ユニスも仕方なくそのまま歩き続けた。ユニスにはプリシラに話したいことがあるのだが、そのタイミングがつかめないまま歩き続けるだけだった。
そしてプリシラの泊まる宿が近づいてきた。
ここにきてようやく意を決したユニスはプリシラを振り返った。ここで別れてしまったらもう次に会うまで話ができない。ユニスは立ち止まり、口を開こうとした。
「なあ・・・」
「ユニスさん!」
2人が口を開いたのは同時だった。プリシラは決意したような目を見開いてユニスの目を見ていた。ユニスはプリシラの勢いに驚いてしまい、言おうとしていた言葉を引っ込めてしまった。
「な、なんだ?」
「私、このままユニスさんと別れたくありません。せっかくいろいろお話ができて、お互いのことを知ることができたのに、このままサヨナラなんてしたくないんです。」
「・・・」
ユニスを見つめるプリシラの目は、まるでボス部屋の時のような強い意志を持った目だった。
「私、ユニスさんにずっとついていきたいんです。私のレベルは3、ユニスさんは30。不釣り合いだし、ずうずうしいのはわかっています。でもどうしても言いたいんです。」
(こ・・・これは、この話の流れは、まさか告白!?ヤバいヤバい、そんなことになるとは思ってなかったから心の準備が・・・!)
ユニスの心臓の鼓動が高まってきた。
「ユニスさん、お願いです。」
「はい。」
「私と・・・これからもパーティを組んでください!」
「・・・・・・・・・は?」
ユニスは一気に気が抜けるのを感じた。告白ではなくパーティのお願いだったのだ。
ユニスは落胆すると同時に笑いが込み上げてきた。以前エリザにこっぴどくフラれていたくせに、この状況で浮かれてしまうとは、俺はなんて自意識過剰なんだ。
「・・・ダメですか?」
プリシラが、意識してかどうか上目遣いに聞いてくる。このしぐさをされれば男で断るのは難しいだろう。まあ、断るつもりはないユニスだったが。
「いや、ダメじゃない。」
ユニスはそう答えた。実はもともとユニスから話をしようとしていたことも、同じくプリシラとパーティを組む話だったからだ。
ユニスはプリシラの目を見てはっきりといった。
「プリシラは俺の恩人だ。俺のレベルが上がった代わりにプリシラのレベルが下がったんだ。だから俺にはプリシラのレベルを上げるための手助けをしたい。」
「!じゃあ」
「パーティ、組んでやる・・・いや、組んでくれ。こんなことでお前に受けた恩が返せるわけじゃないが、俺はお前のレベル上げの手伝いがしたい。」
「ユニスさん!ありがとうございます。うれしい・・・」
ユニスの答えにプリシラの顔がぱっと輝いた。その顔を見てユニスは不思議にほっとしたような気分になった。
ユニスはプリシラに救われた。だからユニスはプリシラのために共に進んでいく決心をした。彼女の笑顔は、その選択が間違っていないと思わせてくれた。
「今日は寝不足で頭がはっきりしないから、明日話し合うぞ。パーティの方針とか、いろいろと。」
「はい!」
そう言うとユニスはくるりと体を宿のほうに向けて歩き出した。プリシラはそんなユニスに小走りで追いついて、横に並んで歩く。
並んだプリシラをちらりと横目で見たユニスはそれについては何も言わなかったが、ふと気づいたように付け加えた。
「それと、俺のことをユニスさんと呼ぶな。」
「え?」
「これからずっとパーティを組んでいくのに、”さん”付じゃおかしいだろ。俺がプリシラって呼んでんだ。お前も俺のことをユニスって呼べ。」
「!はい、ユニスさ・・・ユニス。」
2人は並んで歩く。もう宿はすぐ近くだ。
プリシラは横にいるユニスを見上げるように見て言った。
「ユニス。」
「なんだ?」
「腕・・・組んでもいいですか?」
その言葉にユニスは驚いてプリシラに振り向いた。少しの間、表情を変えず無言で見ていたユニスだったが、再び前を向いていった。
「ダメだ。調子に乗るな。」
「・・・ケチ。」
プリシラは少しむくれたように言った。ユニスは何も言わず前を向いている。
宿までの短い距離を2人は寄り添って歩く。
その時間はわずかだったが、2人にとってこれまで感じたことのないほど心が満ち足りた時間だった。
(第1章 了)
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これで第1章は終わりです。ここまで読んでいただいてありがとうございました。
よければ感想などいただけると嬉しいです。
第2章は鋭意構想中です。しばらくお待ちください。
また、私の別作品も読んでいただければ嬉しいです。
「未来の賢者ロディの間違い探し冒険譚」
https://kakuyomu.jp/works/16817330650498831411
2023.3.10 灯火楼
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